2023 Fiscal Year Annual Research Report
位相安定な高強度中赤外光パルスによる高速物性制御とそのサブサイクル分光計測
Project/Area Number |
22KJ0666
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山川 貴士 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 超高速現象 / サブサイクル分光 / フェムト秒レーザー / 強誘電体 |
Outline of Annual Research Achievements |
高強度中赤外光パルスを用いた固体のサブサイクル分光による研究を行っている。サブサイクル分光とは、ポンプ・プローブ分光法の一種で、ポンプ光電場の振動周期より短い時間分解能で測定を行うものを指す。これまでに、1次元モット絶縁体[Ni(chxn)2Cl](NO3)2(以下、NCN)を対象に、励起子の光ドレスト状態形成に伴う光学応答の変化を測定し、サブサイクル時間スケールで生じる物質の中赤外電場応答を明らかにした。 最終年度は、水素結合型強誘電体クロコン酸において、O-H伸縮モードを励起することによって強誘電分極を高速に変調する研究を行った。観測された分極変化の時間波形は、調和振動子モデルを使った計算や、線形感受率スペクトルから予想される電場応答では再現できないことがわかった。そこで、O-H伸縮モードの非調和性を考慮したシミュレーションを行った。O-H伸縮モード自体のポテンシャルの非調和性や、周波数~3 THzの帯域に存在する分子間振動モードとの非調和結合を取り入れた非調和振動子モデルによって、分極変化の時間遅れを再現することができた。以上の結果は、プロトンのダイナミクスに、これらの非調和性が深く関わっていることを示している。本研究で観測された高周波の分極変化は、プロトンやπ電子といった軽い粒子が分極を担う物質であったからこそ電場に追従して変化している。このことを考慮すると、クロコン酸を含む水素結合型強誘電体では、変位型強誘電体や秩序無秩序型強誘電体に比べ圧倒的に高速の分極制御が可能であると考えられる。
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