2022 Fiscal Year Annual Research Report
Abstraction as Natural Process: Whitehead's Pluralistic Philosophy of Nature
Project/Area Number |
21J22234
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 有輝 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | ホワイトヘッド / 進化の哲学 / 価値の経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、当初、抽象作用を行うような思考する生命有機体の活動と相互作用が、ホワイトヘッドの哲学においてどのように捉えられているのかの検討を目指していた。まずその準備として、自然の諸秩序の生成変化とその原理を論じる「進化の哲学」として彼の哲学を読解することを試みた。しかし考察を進める中で、本研究の主題である抽象作用は、概念的思考ではなく、自然の諸秩序との選択的相互作用という価値的な経験を通じて諸秩序の生成変化に関与する、生命有機体の活動性として捉えられるという仮説を得た。この仮説の検証が、来年度の課題となる。
より具体的には、まず、昨年度考察したホワイトヘッドの「思弁哲学」という方法と彼の哲学の進化論的性格との相互補完的関係について、「「生の技法」としての哲学:ホワイトヘッドにおける進化論と哲学の方法」と題して発表した。続いてこの「進化」概念について、近年公刊された講義録の内容を踏まえ多角的な考察を行った。彼の「有機体の哲学」は、自然法則から生態系、生物身体に至るまでの様々な秩序が重層的に「進化」するという「進化の哲学」である。そして、諸有機体による価値の経験という内奥性の次元を経由することで、ホワイトヘッドは人間の経験の秩序、ひいては哲学的思考の生成変化をも進化の射程に収めている。以上を、論文「有機体の哲学にとって「進化」とは何か」にまとめた。
以上の作業をする中で、有機体と環境の間の選択的相互作用としての価値の経験が、更なる考察対象として浮上した。そこで、2022年9月から12月にかけてはブリティッシュコロンビア大学哲学科を、2023年1月からはニューヨーク大学総合文化研究科を訪問し、有機体による価値のエナクション(行為的産出)の理論や、現代の分析的価値論とホワイトヘッド哲学との接続を試みている。その暫定的な成果は「価値の経験と有機体論的な心の哲学」と題して発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究では、ホワイトヘッドにおける抽象作用の概念を、思考する生命の活動として捉えるために、ホワイトヘッドの生命論に取り組む予定であった。しかし、その準備としてホワイトヘッドにおける「進化」概念を論じる中で、真に問われるべきは生命による価値の経験であるという新たな見通しを得ることができた。また、研究開始時には計画していなかったブリティッシュコロンビア大学、ニューヨーク大学での研究を通じて、生命による価値の経験の捉え方について、現代哲学の議論とホワイトヘッドの議論を重ねながら考察する様々な方途を探ることができた。これらの考察を今年度中に具体的な成果に結実させることはできなかったが、当初の計画にはなかった方向へと研究を深めることができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、抽象作用を自然の過程に帰すというホワイトヘッドの着想への注目を出発点としている。今年度の研究を通じて、この一見奇妙な着想を、事実と価値の領域を架橋する包括的コスモロジーの構築という彼のプロジェクトの一環として捉える道が見えてきた。それに伴い、抽象作用概念の読解を通じてホワイトヘッド哲学の多元論的性格を明らかにするという本研究全体の課題を、次のような問いによって捉え直すことにする。すなわち、ホワイトヘッドのコスモロジーにおいて、諸環境と相互作用する諸有機体はいかにしてそれぞれに固有の仕方で価値づけを行い、価値を経験するのか。そして、そうした価値の経験は諸環境と諸有機体の生成変化にいかに関与しているのか。そもそも、ホワイトヘッドの論じる「価値」とはいかなる実在性を持つものであるのか。来年度の研究では、これらの問いに応答することを目指す。その際、今年度試みた現代哲学とホワイトヘッド哲学の接続を、引き続き手がかりとしたい。
なお、2023年8月までは引き続きニューヨーク大学総合文化研究科での滞在を継続し、9月に帰国して日本での研究を再開させる予定である。
|
Research Products
(3 results)