2022 Fiscal Year Annual Research Report
Physics and economics for microbial ecology and intracellular metabolism
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21J22920
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
山岸 純平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 代謝系 / 統計物理学 / ミクロ経済学 / 最適化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度には、細胞内代謝系における普遍的な性質と原理を、物理法則や環境条件という制約のもとでの進化/適応の帰結として明らかにすることを目的とし、ミクロ経済学や物理学(力学系理論、統計物理学)を用いた理論研究をおこなった。そのために、主に2つの研究を、互いに補い合うトップダウン的アプローチとボトムアップ的アプローチからおこなった。
前者の研究は、ミクロ経済学におけるSlutsky方程式を用いることで、任意の反応や代謝経路のフラックスに関して、栄養環境変動に対する応答と阻害剤投与に対する応答との間に「線形応答関係式」が成り立つことを示した。この関係式は質量保存則という物理化学的な制約の帰結として任意の代謝系において成り立つべきものであり、細胞内の代謝反応ネットワークや目的関数などのミクロな詳細についての事前知識なしに、たとえばある反応の栄養応答を測定することで、その反応の薬剤応答についての定量的予言を直ちに与えることができる。2022年度中にプレプリントを公開し学術雑誌へ投稿中である。
後者の研究では、細胞成長における休眠相の普遍的な原理について考察している。自己複製能は生命の代表的な特徴と言えるが、自然界において細胞は多くの場合増殖をとめ、「眠り」に入っている。休眠状態が普遍的に観察されるにも関わらず、その理論的な理解は、指数成長相の理論に比べはるかに扱いづらいため、ほとんど進んでいない。そこで本研究では、細胞の各代謝反応における中間生成物の生産を陽に考慮した大自由度力学系モデルを新たに導入し、数値シミュレーションおよび分岐理論や平均場理論を用いて解析をおこなっている。とくに、貧栄養環境では中間生成物の蓄積が「反応のジャミング」を引き起こし、指数成長相から成長率が桁で小さい「休眠相」へと不連続的に転移(カスプ分岐)することを明らかにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては、細胞内代謝系における普遍的な性質と原理を物理法則や環境条件という制約のもとでの進化/適応の帰結として明らかにすることを目的とし、互いに補い合うトップダウン的アプローチとボトムアップ的アプローチから理論研究をおこなっている。前者に対応するミクロ経済学を援用した代謝理論(「代謝経済学」)と後者にあたる「細胞と生態系の“統計物理学”」のいずれにおいても、2022年度のうちに新しい研究成果を得ることができた。とくに前者に関してはプレプリントの公開と学術雑誌への投稿の段階まで研究を進展させることができ、後者に関しても論文の原稿を概ね書き上げ、プレプリント公開の直前まで進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、現在投稿中および投稿直前の段階にある論文の査読対応をこなし、学術雑誌への掲載をめざす。その上で今後は、トップダウン的アプローチとボトムアップ的アプローチの研究をそれぞれ発展させるだけでなく融合し、細胞および生態系の代謝挙動や安定性についての予測と制御を可能とする一般理論を完成させることを目標とする。このような理論は、薬剤の副作用の予測やバイオ燃料生産の効率向上、ガンにおける新たな創薬ターゲットや治療法の提案など、基礎的な生命科学だけでなく医学や工学まで、様々な分野に大きなインパクトをもたらすと期待される。
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