2023 Fiscal Year Annual Research Report
Physics and economics for microbial ecology and cellular metabolism
Project/Area Number |
22KJ0698
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山岸 純平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 代謝系 / 統計物理学 / ミクロ経済学 / 細胞成長 / 最適化 / 休眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間全体を通じて、細胞内代謝系や微生物生態系などの生命システムの普遍的な性質と原理を、物理法則や環境条件という制約のもとでの進化/適応の帰結として明らかにすることを目的とし、ミクロ経済学や物理学(力学系理論、統計物理学)を用いた理論研究をおこなった。とくに最終年度においては、主に2つの研究を、互いに補い合うトップダウン的アプローチとボトムアップ的アプローチからおこなった。
前者の研究では、ミクロ経済学におけるSlutsky方程式を用いることで、任意の反応や代謝経路のフラックスに関して、栄養環境変動に対する応答と阻害剤投与に対する応答との間に「線形応答関係式」が成り立つことを示した。この関係式は質量保存則という物理化学的な制約の帰結として任意の代謝系において成り立つべきものであり、細胞内の代謝反応ネットワークや目的関数などのミクロな詳細についての事前知識なしに、たとえばある反応の栄養応答を測定することで、その反応の薬剤応答についての定量的予言を直ちに与えることができる。したがって、このような関係式は、細胞の代謝状態を望みの方向へ変化させるという制御のための定性的および定量的な指針としても有用と期待される。
後者の研究では、細胞成長における休眠相の普遍的な原理について考察した。細胞の各代謝反応における中間生成物の生産を陽に考慮した大自由度力学系モデルを新たに導入し、数値シミュレーションおよび分岐理論や平均場理論を用いて解析をおこなうことで、貧栄養環境における細胞の休眠相への転移が中間複合体形成をともなう大自由度反応ネットワーク系における一般的な性質であることを明らかにした。このモデルは、表現型のヒステリシスや飢餓後の成長相への復帰に要するラグタイムなど、休眠の他の基本的な特徴も再現し、成長休眠の転移にともなう細胞内構成要素の多様化など新規な予言をもたらした。
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