2022 Fiscal Year Annual Research Report
人馴れが生態系にもたらす新たな脅威:大規模実験による群集規模の捕食リスク評価
Project/Area Number |
22J00239
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内田 健太 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 人馴れ / 都市の野生動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
野生動物の人馴れは、人間そのものだけでなく、捕食者の対する警戒心の低下を引き起こすことが知られている。特に近年、捕食者が同所的に生息している環境(例えば、自然観光地など)においても、野生動物の人馴れが広く見られ、それによる個体の捕食リスクの上昇が指摘されている。しかしこれまで、実際に人馴れと捕食危険性を検証した研究は無い。また、人馴れは個体内の行動の変化とする見方が強いため、個体群や群集規模でもリスクを評価した研究は無く、野生動物の人馴れがもたらす生物多様性へのインパクトは過小評価されている可能性がある。そこで本研究では、人馴れが生物間の相互作用を介して、他種に伝播することで、群集規模での捕食リスクが高まる可能性を検証する。本研究は、人馴れが個体スケールの現象とする限定的な見方を変え、生態系規模の問題である視点を世界に先駆けて発信する意義がある。現在、自然観光の現場では、自然資源の利用と環境負荷の軽減の両立が課題となっている。そのため、ある程度は野生動物との接触を許容しつつ、生態系へのインパクトを抑える現実的な管理策が求められる。本成果により、闇雲に人馴れを防止するのではなく、種の生態系機能の観点から優先的に対策すべき種を選定することで、人馴れの他種や群集への波及効果を抑えるといった管理提言が可能となる。 本研究ではまず、シジュウカラの人馴れが、近縁のカラ類(ヒガラ・ハシブトガラ・ゴジュウカラ)とリスに伝播することを検証する(研究1)。次に、人馴れの伝播が確認された種を対象に、研究1の後で捕食者に対する警戒心が低下したのかを検証する(研究2)。さらに、市民や動物写真家へのアンケート調査から、対象のカラ類とリスの実際の捕食リスクを定量的に調べ、人馴れが進んだ集団ほど捕食リスクが高いことを示す(研究3)。以上の3つの研究から、人馴れが生態系へもたらすリスクの実証を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究計画では、主にシジュウカラなどの鳥類の人馴れが、近縁の鳥類およびエゾリスに伝播する可能性を検証すること、また、北海道の複数都市で鳥類およびエゾリスの人馴れ度合いを評価することを重点的に行った。まず、鳥類の人馴れが他種に波及する可能性ついては、人馴れした鳥類の実験準備と野外での提示操作を行い、提示された鳥類およびエゾリスの応答の観察を行った。また、実験候補地において提示実験前の人への警戒心の評価を実施した。その結果、2022年度は、連続した雨天、強風の日が多く続いたため、人馴れ提示実験に有する連続的な日数の確保が非常に難しく、実験が難航した。そのため、人馴れの他種間の伝播を実証することが難しかった。次年度以降には日数を短縮させながら実験を行う方法を模索する必要がある。一方で、複数都市の人馴れ度合いの評価は、比較的順調にサンプリングを行うことができた。帯広市、札幌市、北見市、旭川市で、鳥類およびエゾリスの人馴れ度合いを評価することができたため、次年度も継続的に採取する予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、天候不順により野外実験における予定通りの日数の確保難しかった。そこで、不安定な天候を考慮して、野外実験の提示期間を2週間に短縮して、人馴れの伝播の実証を試みる。また、人馴れが伝播した集団で捕食者への警戒心の低下を検出する。キツネの剥製を提示した際の、近づける距離を検出する。昨年度同様、複数都市で引き続き人馴れ度合いを評価することに加えて、市民に対するアンケート調査を開始する予定である。
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