2022 Fiscal Year Annual Research Report
形式意味論における合成性原理の包括的研究:メタ意味論としての言語哲学
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22J00561
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高谷 遼平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 言語哲学 / 意味論 / 合成性 / メタ意味論 / 文脈主義 / 形式意味論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に次の二つの研究を行った。すなわち、(1)二重指標意味論における主張概念と合成性の関わり、そして(2)動的意味論における合成性概念の解明である。 (1)について、二重指標意味論を始めとする哲学的意味論における合成性に関する研究は本研究課題開始時にはある程度完了していたものの、以下の点でさらなる研究が必要であることが判明したため新たな分析を行った。すなわち、発話の主張内容はしばしば対角線命題として解釈されるべきであると論じられるが、この意味概念が合成性とどのように関わるのか(対角線命題を直接的に合成的意味とするのか、それとも合成的意味から間接的に導かれるのかなど)に関する研究は少ない。一般的な立場は、二重指標意味論における合成的な意味をDavid Lewis流の意味概念(文脈と値踏みの情況の順序対から真理値への関数)と考え、そのうえで対角線命題が部分的に合成的に導出されると考える立場であるが(例えばRabern (2017), ‘A Bridge from Semantic Value to Content’など)、その場合に主張内容は常に対角線命題であるのかという問題が生じる。したがって本年度は、対角線命題と主張内容、そして合成性との連関について統一的に説明可能なフレームワークに関する研究を行った。 (2)について、研究実施計画では生成文法派の言語理論や組み合わせ範疇文法における合成性概念の解明作業を進める予定であったが、動的意味論における合成性概念もまた頻繁に問題になる概念であるため、動的意味論と合成性の関わりについての研究を行った。具体的には、まず古典的な談話表示理論にかわって合成的理論として登場した動的述語論理に焦点を当て、そこでの合成性概念と従来の静的な形式意味論における合成性概念の比較を行った。 以上の研究について、その成果は学会発表を経て順次論文化される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画からいくつかの変更はあったものの、おおむね順調に進んでいる。理由は以下である。 本年度の研究は、組み合わせ範疇文法、生成文法派の言語理論、そして二重指標意味論という三つの理論に着目し、これらの意味論における合成性概念を解明することが目的であった。まず二重指標意味論について、詳細な仕方で合成性の定式化が達成された。具体的には、二重指標意味論において文の発話の主張内容が合成的な意味なのか否かという問題について、二つの異なる合成性概念の定式化を与え、一方のもとでは合成的ではないが他方のもとでは合成的であることを明らかにした。合成性の定式化によって「合成的な意味とはなにか」もまた変動することを明示的に示した以上の成果は、二重指標意味論のみならずそのほかの意味論的フレームワークにも応用可能であると見込まれる。また、哲学的な意味論について、そこで典型的に問題となるいくつかの問題、典型的には、文脈主義-相対主義論争やいわゆる対角線命題の理論的意義などを合成性という軸から捉える研究も行った。これらの研究は、言語哲学のみならず認識論やメタ倫理学への貢献の可能性を秘めており、当初想定されていた以上の進展であったと言える。 他方で、二重指標意味論以外の言語理論における合成性については計画を変更し、組み合わせ範疇文法及び生成文法派の言語理論ではなく、動的意味論における合成性概念の解明を行った。動的意味論においても合成性はしばしば問題となるが、動的意味論における文の「意味」は静的な意味論におけるそれとは異なる。そこで、動的意味論における合成性の解明と二重指標意味論なども含む静的意味論における合成性との比較が必要だと考え、計画を変更して以上に関する研究を始めた。現在はまず前者、すなわち動的意味論における合成性がどのように定式化されうるのかについての研究を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の二点を中心に進められる。第一に、本年度の研究の継続と発展、そして第二に、本年度は取り掛かることができなかった組み合わせ範疇文法や生成文法派の言語理論などにおける合成性の解明である。 第一の研究について、本年度の成果の一つである二重指標意味論における合成性概念の詳細な分析を用い、いわゆる対角線命題に関するいくつかの問題に解決を与えられるのではと見込んでいる。具体的には、様相オペレータ、特に現実性オペレータを含むような文の主張内容は対角線命題であるという言語哲学上の主張について、意味論が合成的であるという制約とこの主張を整合的に説明可能な分析を与えることを目指す。次に文脈主義-相対主義論争について、指標的文脈主義、非指標的文脈主義、真理相対主義といった代表的な立場に加え、これまでほとんど顧みられることのなかった内容相対主義という立場にも着目し、二重指標意味論に関するこれまでの研究をいかすことでそれぞれの立場がどのような言語現象において適切となるのかを分類できると考えている。最後に動的意味論について、本年度中に動的意味論内部における合成性の解明を済ませ、次年度以降の研究、すなわち静的意味論における合成性との比較の基礎研究を完了させたい。 第二の研究について、二重指標意味論をはじめとする哲学的意味論以外の合成性として、組み合わせ範疇文法などのみならず、自然言語処理分野一般でしばしば話題となる合成性がどのようなものであり、それに対して哲学や形式意味論における合成性研究がどのように影響を及ぼすことが可能であるのかについて研究を進めたい。特に本年度は、自然言語処理分野などで想定される合成性の定式化が哲学・形式意味論における定式化とどのような点で異なるのかを、それらの理論目標・理論設計の点から明らかにしたい。
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