2022 Fiscal Year Annual Research Report
自然主義文学運動におけるパリ郊外の表象―印象派美術との共闘
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22J00942
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安達 孝信 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | エミール・ゾラ / ユイスマンス / パリ / 郊外 / 印象派 / ウエルベック / ラファエリ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は1880年代のフランス自然主義文学と印象派絵画のパリ郊外表象をめぐる関連を調査するために、1889年に出版された『パリの人々』に寄せられた自然主義作家たちの文章とそれに添えられた画家ジャン=フランソワ・ラファエリの版画との関係性に焦点を当てて研究を進めた。
2022年8月から9月にかけてパリのフランス国立図書館にてラファエリの書簡等を中心に資料調査を行った。ラファエリはユイスマンスらによってパリ郊外画家として1879年に見出されたが、成功を収めるにつれ画家はそのレッテルを疎ましく思うようになった。貧民や郊外のみを専門とする画家とみなされることを嫌ったラファエリは、庶民を含めたさまざまな階層の人々の性格を活写する「性格主義」という言葉を1884年の個展に際して作り、新たな方向性を打ち出していく。ユイスマンスは画家の意向を理解し、『パリの人々』においては郊外画家ではなく性格画家としてのラファエリに合致した主題「カフェの人々」を提供する。そこには、印象派画家、自然主義文学、双方との差別化を図りつつも、その影響下から逃れられていないラファエリの姿と、あくまでラファエリを自然主義的文脈の中に位置付けようとするユイスマンスの意志とが読み取られる。この問題について、2022年11月に関西フランス語フランス文学会にて口頭発表を行った。
また、研究の過程で、パリ郊外に関する19世紀的な問題意識が現代フランス作家においても見られることに注目し、ミシェル・ウエルベックの小説『地図と領土』におけるパリ郊外嫌悪と郊外への回帰に関する論文を執筆し、東京都立大学西山雄二研究室紀要『リミトロフ』第三号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
画家ジャン=フランソワ・ラファエリと自然主義作家グループとの交友関係について調査することが、1880年代におけるパリ郊外をめぐる印象派と自然主義文学運動との共闘関係について分析する上で重要な観点を提供することを発見したため。特に『パリの人々』には、ユイスマンスのほか、エミール・ゾラ、エドモン・ド・ゴンクールなどの文章が掲載されており、彼らの文章とラファエリの挿絵との関係を調査することで、1880年代に印象派画家と自然主義作家たちが持つパリ郊外に対する見方がどのように変化していったのかということについてより体系的な分析を行うことができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はパリ郊外表象をめぐるラファエリとユイスマンスの交友にとどまらず、ラファエリとエミール・ゾラ、エドモン・ド・ゴンクールとの関係性についても調査を進めていく。 とりわけ1860年代までのレアリスム絵画が貧民、労働者、郊外を重視した一方で、1870年代以降の印象派絵画がむしろブルジョワや行楽地としての郊外を好んで描くようになることに注目する。その例外としてラファエリが現れるが、彼もまた印象派グループから追放されてしまう。郊外をめぐる印象派画家たちの対立が、自然主義グループの分裂とも呼応していることに注目し、文学場をめぐる社会学的分析を通してパリ郊外の詩学を明らかにしていくことを目指す。
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