2022 Fiscal Year Annual Research Report
ポリA鎖を介した転写後制御の時空間動態から迫る植物カルスの分化多能性獲得機構
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22J01453
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
荒江 星拓 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / シュート再生 / ポリA鎖分解酵素 / 転写後制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物細胞はオーキシンとサイトカイニンのバランスを調整することで,容易に脱分化してカルスを形成し再び根や地上部(シュート)に再分化する高い再生能力を有している。mRNAの安定性や翻訳効率に影響を与えるポリA鎖を分解する酵素、AtCCR4およびAtCAF1の変異株では、シュート分化能が失われることを見出した。これらの変異株ではカルス形成・シュート再生の過程で重要なmRNAの適切な転写後制御ができなくなるために,カルスの多分化能が失われると考えられる。本研究ではポリA鎖分解酵素の標的mRNAがシュート再生過程で受ける転写後制御の時空間動態を,RNA顆粒状構造との関わりを含めて明らかにすることを目的としている。 本年度は、シュート再生に関わるポリA鎖分解酵素の標的mRNAを同定するために,野生型株とatcaf1変異株を材料として、カルス誘導-シュート誘導過程における網羅的なポリA鎖長解析を行った。当初予定していた、ショートリードシーケンサーによる手法から、ロングリードシーケンサーを用いた完全長cDNAを解析する手法に切り替えたことで、データ取得が若干後ろ倒しとなったが、新手法の採用によりポリA鎖長に加えてmRNA構造も含むデータを取得することに成功した。得られたデータの予備的な解析では、野生型においてもカルス誘導-シュート誘導過程におけるポリA鎖長の大きな変化が観察されており、これはこの過程におけるポリA鎖長制御の重要性を示唆していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施を予定していた網羅的ポリA鎖長同定のための実験に関して, 別の研究グループから新規の方法が報告された。ショートリードシーケンサーを用いた従来法では、mRNAのアイソフォームレベルでの解析は不可能であったが、ナノポアロングリードシーケンサーを用いた新手法では、ポリ鎖長に加えて、ポリA付加サイトやスプライシングパターンなどのmRNA構造を決定することができ、mRNAアイソフォームレベルでの解析が可能となる。そこで、実験手法を変更し、新規手法に基づいた予備実験およびデータ解析方法の検討を行った。 ポリA鎖長は、ナノポアシーケンサーから出力される電流量の経時変化データから推定することができ、いくつかの解析手法が報告されている。そこで、それらの解析手法について比較検討を行った。検討の結果、ポリA鎖長の推定にあたりデータの前処理が必要な解析法Aが、前処理を行わない他の解析法と比較して、「必要となる計算資源」と「推定されるポリA鎖長分布の正確性」の2つの観点から優れていると判断し採用した。 これまでに、採用した手法を用いて予備的な解析を行い、野生型において、カルス誘導およびシュート誘導過程で非常に大きなポリA鎖長分布の変動を示す遺伝子があることを見出した。また、ポリA分解酵素の欠損株では、野生型株と比較して顕著にポリA鎖が長くなっており、ポリA鎖長制御の破綻がシュート分化能に影響を与えていることを示唆する結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリA分解酵素の欠損株ではポリA鎖分解制御が失われることによるmRNA分解の異常によって、シュート再生不全の表現型が現れるものと考えられる。この表現型に関わる可能性のある標的mRNAは、網羅的なポリA鎖長解析から候補を見出すことができる。2022年度までの解析では候補遺伝子の探索に必要なデータ量を部分的に達成しているため、次年度以降も引き続き、ポリA鎖長解析を行い候補mRNAの探索を行う。ポリA鎖長はポリA結合タンパク質の保護に由来する多峰性の分布を示すことから、条件間のポリA鎖長分布の差を統計検定するためには、分布の単峰性などを仮定しない手法を用いる必要がある。そこで今後は、最適輸送問題などで用いられる分布の単峰性や正規性などを仮定しない統計手法を中心に検定手法の検討を行い、野生型と変異株間、あるいはタイプポイント間で有意にポリA鎖長に変動が見られる遺伝子を同定する。また、全長cDNA配列の解析が可能となったことから、当初予定していた遺伝子レベルの解析に加えてmRNAレベルの解析を行う。しばしばmRNA上の特異的な配列モチーフが、mRNAの細胞な局在やポリA鎖長制御に働くことが知られている。そこで、mRNAアイソフォーム間でポリA鎖長の変動が異なるものを選抜して、変化があったmRNA配列を抽出する。さらに、抽出したmRNA配列に有意に濃縮された特異的なモチーフを探索することで、アイソフォーム間で異なるポリA鎖長制御を担うモチーフ配列を探索する。
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