2023 Fiscal Year Research-status Report
ポリA鎖を介した転写後制御の時空間動態から迫る植物カルスの分化多能性獲得機構
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22KJ0759
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒江 星拓 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / シュート再生 / ポリA鎖分解酵素 / 転写後制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物細胞はオーキシンとサイトカイニンのバランスを調整することで,容易に脱分化してカルスを形成し再び根や地上部(シュート)に再分化する高い再生能力を有している。mRNAの安定性や翻訳効率に影響を与えるポリA鎖を分解する酵素、AtCCR4およびAtCAF1の変異株では、シュート分化能が失われることを見出した。これらの変異株ではカルス形成・シュート再生の過程で重要なmRNAの適切な転写後制御ができなくなるために,カルスの多分化能が失われると考えられる。本研究ではポリA鎖分解酵素の標的mRNAがシュート再生過程で受ける転写後制御の時空間動態を,RNA顆粒状構造との関わりを含めて明らかにすることを目的としている。 本年度は、前年度から引き続きシュート再生に関わるポリA鎖分解酵素の標的mRNAを同定するために,野生型株とatcaf1変異株を材料として、カルス誘導-シュート誘導過程における網羅的なポリA鎖長解析を行った。得られたポリA鎖長分布について、いくつかの統計検定手法を検討し、最終的にカルス誘導-シュート再生過程、および野生型株とatcaf1変異株間でポリA鎖長が大きく変動する遺伝子を多数同定することができた。また、予備的に取得したシュート誘導過程における網羅的なmRNA半減期解析のデータと網羅的ポリA鎖長データを統合することで、mRNAの安定性によってポリA鎖長全体の分布が異なることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、カルス誘導-シュート誘導過程での網羅的ポリA鎖長解析を実施した。ポリA分解酵素の欠損株ではポリA鎖分解制御が失われることによるmRNA分解の異常によって、シュート再生不全の表現型が現れるものと考えられる。そこで、野生型株とatcaf1変異株で顕著にポリA鎖長が変化した遺伝子を抽出し、表現型に関わる可能性のある標的mRNAの候補遺伝子を見出した。ポリA鎖長の変化を解析するにあたり、最適輸送問題などで用いられる分布の単峰性や正規性などを仮定しない統計手法を中心に検定手法の検討を行い、高感度で変化を検出する方法を決定した。 また、予備的に取得したシュート誘導過程における網羅的なmRNA半減期解析データをもとに、分解速度が速いmRNAグループについてポリA鎖長を解析することで、mRNAの分解速度がポリA鎖分解速度と相関していることを示唆する結果を得た。このことはポリA鎖長制御がシュート誘導時のmRNA分解を介して、シュート再生を促進するという仮説を支持すると考えられる。 本年度の実施を予定していたRNA顆粒状構造と相互作用するmRNA種の同定を目的としたAPEX-seqの実施は、実験に供する予定の変異株作出が難航したため、実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析で、ポリA分解酵素の欠損株ではシュート再生不全の表現型が観察され、ポリA鎖分解ができなくなることで、カルス誘導-シュート誘導過程におけるポリA鎖の短縮ができなくなることが明らかになった。また、mRNA半減期の網羅解析結果とポリA鎖長解析結果を統合することで、ポリA分解酵素の欠損に起因するmRNA分解異常が起きた結果、シュート再生不全の表現型が現れることを支持する結果が得られた。 今後は、ポリA鎖長の変動が観察され、かつmRNA分解速度が速いmRNA種に着目し、ポリA分解制御に関わる可能性のあるモチーフ配列の探索を行うことで、AtCAF1によってシュート誘導過程で分解速度が制御されている標的mRNA候補を同定する。さらに、同定した標的mRNA候補について、探索したモチーフ配列に変異をいれたモデルmRNAを作成し、個別にポリA鎖長解析およびmRNA分解速度解析を実施し、AtCAF1の標的mRNAの認識メカニズムを明らかにする。 また、本年度に引き続きRNA顆粒状構造に局在するタンパク質にAPEXを融合した、融合タンパク質を発現させた変異株の作出を行う。さらに作出した変異株を用いてAPEXによるRNA標識の予備実験および条件検討をしたのちに、APEX-seqを実施する。
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Causes of Carryover |
本年度で実施を予定していた次世代シーケンサーを用いた解析APEX-seqについて、その実施にかかる費用を計上していたが、APEX-seqに供する予定の変異株の作出に難航し年度内に実施することができなかった。そのため次年度に実施を繰り越すために、次年度使用額が生じた。 次年度では、本年度に引き続きRNA顆粒状構造に局在するタンパク質にAPEXを融合した、融合タンパク質を発現させた変異株の作出を行い、作出した変異株を用いて、APEXによるRNA標識の予備実験および条件検討をしたのちに、APEX-seqを実施する予定である。
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