2022 Fiscal Year Annual Research Report
トランスポゾン脱抑制因子VANCの標的特異的な結合機構
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22J11735
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 優作 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / トランスポゾン / DNA脱メチル化 / 核酸結合蛋白質 / 構造生物学 / 遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
トランスポゾン(TE)はゲノム上を転移・増殖する塩基配列で、真核生物ゲノムの大きな割合を占める。TEの活動はゲノムの進化に寄与する一方で、遺伝子破壊などを介して宿主に害を及ぼすことも多い。そのため、DNAメチル化などのエピジェネティックな抑制修飾によってTEの活性化を防ぐ機構が、宿主において発達している。 しかしながら、こうした抑制修飾に抗う仕組みをもったTEも存在する。本研究で扱うVANDAL属のTEは、モデル植物シロイヌナズナのゲノム中に1000コピー以上存在し、自己のDNA配列を特異的に脱メチル化する特異的脱抑制能という興味深い性質を有する。DNA脱メチル化が自己特異的であることで、他のTEや不必要な遺伝子の発現を最小限に抑えつつVANDALは転移・増殖が可能であり、この特異的脱抑制能はTEとして有効な生存戦略であると考えられる。 本研究では、脱抑制の特異性を担う抗抑制因子VANCが、標的DNA配列に特異性に結合する分子基盤の解明を目的としている。特に、サブタイプの1つであるVANC21と結合DNA配列との複合体の構造情報が昨年度までに決定済みであったことから、配列特異的な結合に必要だと考えられるアミノ酸残基の重要性を確認するために、これらの残基をアラニン等に置換したVANC21(アラニン置換型VANC21)をin vitroで作出し、ゲルシフト法によって標的配列との結合が弱まるか検証を進めた。 加えて、DNAとの相互作用領域のアミノ酸配列はVANCサブタイプ間で多様化しており、これがVANDAL属TEの有するサブタイプレベルでの高い標的配列特異性に寄与するか検証することを目指した。具体的には、VANCのDNA相互作用領域をサブタイプ間で交換したVANC(キメラ型VANC)を作成し、標的DNA配列が入れ替わるかをゲルシフト法により評価する実験を進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アラニン置換型VANC21を用いた実験は概ね順調に進んでいるものの、キメラ型VANCを用いた実験には遅れが出ている。その理由としては、キメラ型VANCのin vitroでの精製が難航している点が挙げられる。 現在は、蛋白質のアミノ酸配列や精製方法の検討を行っている。これに加えて、精製に用いている大腸菌ではキメラ蛋白質が正常にフォールディングしない可能性を考慮して、キメラ型蛋白質を植物に導入してゲノム上での局在等を調べる実験を並行して進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、VANCは多量体形成能を有することが強く示唆されており、VANDAL内部に密集して存在する結合配列とVANC多量体とが協働的に相互作用することによって結合が安定し、VANDAL領域特異的なDNA脱メチル化が実現していると考えられる。本年度は、これを証明することを目的として、連続した結合配列と多量体化したVANC21との「多対多」の複合体の構造を決定・若しくは予測する。その後、多量体形成や協働性に必要なアミノ酸領域を置換・欠失させたVANC21(多量体形成能喪失型VANC21)を作出し、ゲルシフト法・一分子計測法によって密集した結合配列との結合の動態や安定性を評価する。 上記に加えて、VANCとDNAとの相互作用領域のアミノ酸配列がサブタイプレベルでの高い認識配列特異性を担っていることの証明を目的として、ゲルシフト法によるキメラ型VANCの結合配列の評価を引き続き行う。 最終的には、ここまでで検証したVANCの標的配列特異性に関わる性質の生体内での意義を検証することを目的として、アラニン置換型VANC21・キメラ型VANC・多量体形成能喪失型VANC21をそれぞれシロイヌナズナ個体に導入(形質転換)し、これら蛋白質のゲノム上での局在や、VANDAL領域のDNAメチル化状況を調べる予定である。
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