2022 Fiscal Year Annual Research Report
分子動力学法によるダスト粒子間相互作用の解明と大規模並列計算で探るダスト成長過程
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22J12380
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 雄城 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ダスト / ダストモノマー / 分子動力学 / JKR理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
惑星材料であるダストの成長は数値計算によって調べられている。ダストは多数のモノマー(微粒子)が合体して形成されたものである。数値計算ではモノマー運動を計算しており、その際にモノマーに働く力として、2球の接触相互作用を与えるJKR理論が用いられているが、JKR理論では分子の効果を考慮していない。本研究では分子動力学シミュレーションを用いて、ミクロ物理を考慮したJKR理論の見直しを行った。 我々は2球のモノマー正面衝突シミュレーションを行い、2球間に働く力や付着確率、跳ね返り後の速度などのサイズ、衝突速度、温度依存性を調べた。その結果、JKR理論では予想できない運動エネルギー散逸が見られ、特に衝突速度依存性では高速度衝突における塑性変形によるエネルギー散逸が確認できた。温度依存性では、高温ほど付着確率が増加することが分かった。本研究は、これらの結果に対してエネルギーの観点で注目することにより、マクロ的描像ではモノマー運動エネルギーが散逸する現象は、ミクロ的描像ではモノマー中の分子が持つ熱エネルギーとポテンシャルエネルギーへの変化であることを示した。特に高速度衝突による塑性変形や高温時の結果は、モノマー変形によるポテンシャルエネルギー変化が主な原因であることが分かった。 本研究で明らかにしたJKR理論とシミュレーションの差に対し、シミュレーションを再現するための2球間に生じる摩擦のような散逸力を追加することにより、JKR理論の見直しを試みた。本研究ではKrijt et al. (2013)を参考に、2球の相対速度と接触面の半径に依存するモデルを考え、モデルの妥当性を検証した。その結果、相対速度の3乗と接触半径の3/2乗に比例する散逸力モデルがシミュレーションを再現し、より現実的な接触相互作用になることが分かった。現在、これらの結果について論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分子動力学シミュレーションでは物体を分子に還元してN体問題として分子の運動を解く。サブマイクロメートルサイズの球に含まれる分子数は1億個もあり、その計算時間は膨大である。また、同様に解析にも時間が必要になり、1ランの総計算時間は1週間程度必要である。この1ランの計算時間は想定通りであったが、研究計画より実行数を多くする必要が出てきた。分子は面心立方格子の結晶構造をしており、研究を進めるにつれ2球の結晶構造方向は衝突結果に大きく影響を及ぼすことが分かった。そのため、モノマー衝突過程を統計的に議論するためには結晶構造方向を多数変化させて実行数を増やす必要があり、それに伴い総計算時間が長くなる結果となった。 また、このような計算時間の問題に対し計算資源の問題が存在する。1億個の分子数を用いた計算には大規模並列計算を実行する必要がある。本研究は国立天文台のスーパーコンピュータ「Cray XC50」を用いているが、使用者が多いため計算資源は有限である。 これらの結果により、研究計画時点では想定していなかった長い総計算時間により、進捗に少し遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、モノマーの正面衝突シミュレーションを実行し、接触面に対し垂直に働く相互作用のモデル構築まで終えている。また、回転に関する相互作用に関するシミュレーションを実行中であり、これらの結果については6月までに論文としてまとめる予定である。他に調べる相互作用として、滑りとねじれの2つの相互作用を調べる予定である。 回転は2球の回転方向が正反対であり、滑りは回転方向が同じ状態である。また、ねじれは接触面に対し垂直な軸について2球が互いに逆の回転をしている状態である。そのため、これらの計算時間は同程度であると考えられる。今年度では、すべての相互作用に対するシミュレーションを実行し、力やトルクなどの相互作用についての性質を明らかにする。
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