2022 Fiscal Year Annual Research Report
中生代海棲爬虫類の尾部軟組織復元と機能形態学的解析に基づく水棲適応史の解明
Project/Area Number |
22J12401
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉澤 和子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | 古生物 / 海棲爬虫類 / 魚鰭類 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、絶滅海棲爬虫類の遊泳を駆動した軟組織復元および遊泳能力の推定に取り組んだ。 軟組織の復元:復元のための情報を得るため、現生の生物と絶滅海棲爬虫類化石の腰部・尾部の観察を実施した。現生の生物については、2021年度に爬虫類や哺乳類の解剖学的観察を実施していた。2022年度には、北米で4つの博物館を訪問し、比較的基盤的な分類群から派生的な分類群まで、絶滅海棲爬虫類の化石標本を観察、計測した。これらの情報をもとに、絶滅海棲爬虫類の遊泳を駆動したと考えられる腰部・尾部の筋肉の形態や大きさについて復元を試みた。基盤的な分類群の尾部には、現生の爬虫類と共通した骨格形態上の特徴が見られ、現生の生物の情報をもとに軟組織復元を試行した。より派生的な分類群では骨格形態が特殊化しており、現生の生物との比較が難しいが、腰部・尾部の筋肉の形態と付着部位の候補を数通り示した。その結果を日本古生物学会年会で発表した。 遊泳能力の推定:巡航スピードという観点から遊泳能力について調査した。現生の生物(魚類、サメ類、クジラ類)の遊泳時の力学データを文献から収集し、巡航時の遊泳スピードを体の形態から求めるモデルを考案した。この過程で、一般的に巡航時に遊泳の効率を最大化させる条件(遊泳スピード、尾を振る頻度、尾の振幅の組み合わせ)を発見した。本研究で考案したモデルでは、生物の体長と尾の幅という形態情報から巡航スピードを求めることが可能であり、これを用いることで絶滅海棲爬虫類の巡航スピードを推定した。この結果について、国際誌への投稿を準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軟組織復元の情報収集に関しては、計画通り海外の博物館にて保存状態のよい化石標本を観察・計測できた。前年度に収集した現生の生物の解剖学的情報と合わせて、軟組織復元を試み、おおむね計画通りに研究を実施した。 実施計画では、軟組織復元に基づいて絶滅海棲爬虫類の動きをシミュレートすることを予定していたが、調査により、派生的な絶滅海棲爬虫類の骨格形態の特殊化が著しいためにシミュレートが難しいことが分かり、他の方法によって遊泳能力を推定する必要が生じた。そこで、指導教員等との議論を経て、巡航スピードの推定を行うことことで遊泳能力を調査することとした。現生の生物について、体長と尾の幅という形態情報から高い精度で巡航スピードの推定を行うモデルを考案することができ、絶滅海棲爬虫類にもこのモデルを使用することができた。 当初の計画とは方針を変更することとなったが、「絶滅海棲爬虫類の遊泳様式・能力を推定し水棲適応史を解明する」という目的を達成するための研究はおおむね順調に進んでいると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
絶滅海棲爬虫類のうち本研究で中心的に扱っている魚竜型類では、腰部・尾部の筋肉の主な付着部位となる骨盤や大腿骨の形態・サイズの進化的変化について定量的・網羅的に調査した先行研究が存在しない。本研究の、腰部・尾部の軟組織復元の結果をより定量的に示すため、今後、様々な時代の分類群の骨盤や大腿骨の形態・サイズについて、定量的に進化的変化を調査する予定である。この調査にあたっては、前年度までに収集した化石標本の計測データを使うことができるが、さらにヨーロッパの博物館でも標本観察・計測を行ってより幅広い分類群のデータを収集することを計画している。 また、これまでに実施した研究は、個々の絶滅海棲爬虫類について軟組織の復元を試みたり巡航スピードの推定を実施するものであった。今後、本研究で調査対象とした絶滅海棲爬虫類の分類群について、その生息年代と地域についての情報を文献から収集し、本研究の結果と合わせて、中生代を通じた水棲適応史について考察を行うことを予定している。
|