2023 Fiscal Year Annual Research Report
ヒラシイノミ属腹足類にみる最も新しい動物陸上進出:海洋島における適応進化
Project/Area Number |
22KJ0867
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 香鈴 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 陸上進出 / 腹足類 / ヒラシイノミ属 / 初期発生様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,動物の完全陸生化に至る詳細な進化過程を明らかにするため,潮間帯上部から内陸の森林内にまで生息するヒラシイノミ属腹足類を対象に,主に以下の調査・解析を実施した. 1, 国内外に生息する本属16種について分子系統解析と発生様式の推定を行った.その結果,属内で少なくとも独立に2回の直達発生の獲得と完全陸生化が生じていることが示された.中でも,大東諸島におけるヒメヒラシイノミ(ヒメヒラ)近似種の陸生化は,直達発生の獲得後に短期間で生じていることが判明した.これは,潮上帯に生息する動物において,発生様式の変化が陸生化の鍵となることを示す世界初の結果である. 2, 南・北大東島においてヒメヒラ近似種の分布を調査した結果,同種は両島の全周に分布し,海岸線から内陸へ最長280 m, 標高51 m地点まで進出していることがわかった.分子系統解析において南・北大東島の個体群はいずれも単系統群を形成し,また各島内では,数百m単位の極めて小さな地理的スケールで環状に分化していることが判明した.よって,同種において,海岸個体群であっても海洋が分散に寄与していないことが示唆された.なお大東諸島の陸化時期は160から200万年前の更新世とされており(e.g. 河名・大出 1993),同ヒメヒラ近似種の陸生化は動物の陸上進出例の中でも最も新しいものの一つといえる. 本研究で得られた成果は,国内外の学会大会において計4回の発表を行った.なお,得られた成果は,動物の陸上進出過程の解明だけでなく,ヒラシイノミ属諸種の保全においても重要な知見となる.
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