2022 Fiscal Year Annual Research Report
ミリメートル厚の透明・高強度ナノセルロース構造材料の形成と固体電解質への機能展開
Project/Area Number |
22J12848
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
石岡 瞬 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | セルロースナノファイバー / 耐水化 / 熱成形 / イオン液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
① セルロースナノファイバー (CNF) のみからなるミリメートル厚の積層体の耐水化と、② 熱成形可能なCNFの調製を試みた。 ① CNF構造体にとって、吸水と膨潤は重大な課題である。TEMPO酸化CNF構造体の膨潤を抑制する方法として、CNF表面のカルボキシレート基の対イオンを、1価のナトリウムイオンから多価の金属イオンに交換し、CNF間の相互作用を強化することが挙げられる。そこで、本検討では4価のジルコニウムイオンを対イオンとして導入した。ナトリウム型のカルボキシレート基を有するCNF積層体は水と接触すると、0.5時間で約300% w/w、3時間で2000% w/w以上吸水した。一方、ジルコニウム型の積層体の平衡吸水率は約30% w/wであり、吸水率を劇的に低減させることに成功した。加えて、メチルトリメトキシシランを用いて、ジルコニウム型CNF積層体の表面を疎水化すると、積層体の表面は撥水性を示し、平衡吸水率はさらに低下した。以上より、CNF積層体を用いて、CNF間相互作用の強化・構造体表面の疎水化により、CNF材料の吸水率を劇的に低減できると実証した。 ② また、CNFには融点・ガラス転移点が存在せず、熱成形できない。そこで、TEMPO酸化CNFのカルボキシ基の対イオンとして、低融点のイオン液体のカチオンを導入することで、熱成形性の付与を試みた。イオン液体型CNFシートを熱成形すると、凹凸構造を有する厚材の形成が可能であった。また、イオン液体型TEMPO酸化パルプをホットプレスすると、外観は白色から透明となった。これは、イオン液体型のパルプがホットプレスで軟化・圧密化し、低空隙化したことに由来すると考えられる。また、パルプシート同士の熱融着も可能であった。以上を通じて、イオン液体カチオンの導入により、TEMPO酸化CNF及びパルプ会合体の熱成形が可能となることを実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、CNFのカルボキシレート基の対イオンとしてマグネシウムイオン、カルシウムイオンなどの2価イオンや、鉄イオンなどの3価イオンを導入すると、CNF構造体の平衡吸水率が300~600% w/wに留まることが報告されている。本検討では、4価のジルコニウムイオンを、積層体中CNFの対イオンとして導入することにより、従来の耐水化CNF材料と比べ、吸水率を1/10以下にまで低減することができた。加えて、CNF積層体の表面を疎水化することで、平衡吸水率をさらに低下させることに成功し、CNF積層体を用いて、CNF材料の耐水化処理の設計指針を示すことができた。本成果は、CNF積層体の材料特性と合わせ、ACS Sustainable Chemistry & Engineering誌で公表済みであり、大きな進捗があったと判断した。 また、CNFには融点・ガラス転移点が存在せず、熱成形できない。この成形加工上の課題が実用化を妨げている。本検討では、TEMPO酸化CNFのカルボキシ基の対イオンとして、低融点のイオン液体のカチオンを導入することで、熱成形性を付与することに成功した。ここで、CNFの実用化の障害となるのは、高いプロセスコストである。特に、コストの大きなプロセスは、パルプの解繊プロセスである。本課題では、イオン液体カチオンを導入した解繊前のTEMPO酸化パルプをホットプレス処理に供することで、パルプを軟化・圧密化し、透明シートを形成できた。また、シート間の熱融着も可能であり、解繊フリーとなり低コスト化成形プロセスが実現できた。これらは学術、及び産業的に重要な発見であると考え、進捗状況は良好であると考えた。しかし、本成果は学術誌への投稿準備中であるため、耐水化の成果と合わせて総合的に評価し、区分を「おおむね順調に進展している」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、熱軟化CNFの構造解析を行う。室温から120℃程度までの昇・降温で、小角X線散乱測定、及び広角X線回折測定を行い、相転移に伴う構造変化について解析する。 また、イオン液体型CNF、及びイオン液体カチオンと酢酸の塩を対象とした示差走査熱量測定を行い、固体表面と分子における熱挙動を比較する。 22年度は、熱成形をCNFのシートを出発として行ったが、今年度はCNF粉体を用いて熱成形性を実証する。得られた成形体の光学・力学・構造特性を、溶媒キャスト法で得られた同種CNFのシートと比較し、成形性が良好であるか否を評価する。 更に、イオン液体構造をキチンナノファイバー、無機ナノ粒子であるクレイに導入・熱成形性を実証し、本コンセプトを有機・無機ナノ材料に広く適用可能な熱成形アプローチとして飛躍させる。
|
Research Products
(3 results)