2022 Fiscal Year Annual Research Report
半導体超格子構造を有する高性能平面型熱電変換デバイスの実現
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22J14266
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小池 壮太 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 熱電変換 / ホイスラー合金 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、室温付近で非常に高い熱電性能を持つホイスラー合金薄膜を用いた、高性能な熱電変換デバイスの実現を目標としている。まず、面積当たりの発電性能を最大化するため、発電性能を算出するシミュレーターを3次元有限要素法により構築し、面積当たりの発電電力を最大化する構造設計を行った。デバイスの構造パラメーターを系統的に変化させ、様々なデバイス構造において性能を算出することで得られた理想的なデバイスデザインで、約270(μW/cm2/K2)の出力電力密度となった。これは、バルクBiTeを用いた市販の熱電素子を超える性能であり、室温環境での用途としてBiTe系材料に代わる熱電デバイスの実現が期待される。 それに加えて、基板上に集積される薄膜型熱電変換デバイスの実現には作製プロセスの開発が必要不可欠であった。ホイスラー合金のべた膜からデバイス構造に加工するエッチングプロセスでは、厚いハードマスクを作製し、適切な反応性ガスを用いることで目的のデバイス構造への加工を可能にした。 本研究の薄膜型熱電デバイスは、ホイスラー合金薄膜を加工したデバイス基板に対して、上部キャビティを形成するためのキャップウエハを貼り合わせることで作製される。キャップウエハは基板からリリースされた電極部分にのみ接触するようになっており、基板との接触が残っている高温側との間で温度差が生まれ膜内に電圧が生じる。実際に、デバイスチップの上下面に印加された温度差に対する発電電圧を測定し、温度差に従って線形に発電電圧が増加している様子がみられ、ホイスラー合金を用いた薄膜型熱電変換デバイスの動作を初めて確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、高性能熱電薄膜であるホイスラー合金薄膜を用いた熱電変換デバイスを実現した後、3年目にはホイスラー合金薄膜自体の熱物性評価、それを応用した熱電性能の増強に取り組む予定であった。しかし、ホイスラー合金薄膜を用いた熱電変換デバイスの作製でいくつかの課題に直面し、現時点の進捗は当初の計画からやや遅れている。その中で、主な原因となる事項を以下に説明する。 デバイス作製プロセスにおいて最も大きな課題だったのは、薄膜の中空構造を作製するプロセスである。我々が用いるホイスラー合金薄膜はSi基板上に堆積されており、基板側が加熱された時、膜の面内方向に温度勾配を生じさせるためにはキャビティ構造と呼ばれる空洞を設ける必要がある。これは、ホイスラー合金薄膜直下のSi基板を部分的にエッチングすることにより作製され、薄膜がSi基板からリリースされた形に仕上げることになる。しかし、用いられるホイスラー合金薄膜は非常に大きなひずみを持った膜であり、エッチングによりSi基板の支えを失うとひび割れて電気的に断線するという問題があった。そこで、本研究では様々な構造を試験し、膜のひずみに影響を受けづらいデバイス構造を探求することで、リリース後も断線が起きず、低い内部抵抗を保ったままデバイス作製を完了できるようになった。 また、ホイスラー合金薄膜の材料作製にも課題がある。現状として、ホイスラー合金薄膜は共同研究者により作製されているが、様々な制約があり室温での高性能材料開発を進めながら、大量のデバイス用サンプルを供給するのが難しい状況である。特にデバイス作製に使用しているSi基板上での薄膜の堆積には様々な課題があり、材料開発チームと連携を取りながら、効率的にデバイス開発を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として、ホイスラー合金薄膜を用いた薄膜型熱電変換デバイスの実現を最優先で進めていく。これまでにデバイス作製プロセスをほぼ確立したため、ホイスラー合金薄膜を用いた高性能熱電変換デバイスの作製に入ることを予定している。特に最後のプロセスである、ウエハボンディングを用いた上部キャビティ構造の作製において金属配線が劣化するなどの課題がある。また、これまでのデバイス作製では発電動作を確認するための構造を用いていたため、有限要素法シミュレーションを用いた、面積当たりの発電量を最大化するデバイス構造最適化にも取り組んでいく予定である。 高性能熱電薄膜であるホイスラー合金の性能を反映した、熱電変換デバイスの作製に成功した後は、ホイスラー合金薄膜自体の高性能化に関する研究を進める予定である。その方針として、特に材料のナノ構造化による性能の増強を目指している。一つの方策として、組成をわずかに調整することによる超格子構造は、組成比の調整によるバンドチューニングが容易なホイスラー合金と相性がいいといえる。また、多孔質構造のようなナノ加工も数倍の性能増強につながる可能性がある。熱の運び手であるフォノンの伝導を制御することを目的として作製される周期ナノ構造はフォノニック結晶(PnC)と呼ばれる。我々は既に、ホイスラー合金に対して多孔質構造のPnCを作製することに成功している。熱電材料には高い電気伝導率と低い熱伝導率が求められるので、電気を運ぶ電子伝導に影響を与えないまま、熱を運ぶフォノン伝導を選択的に妨げるPnCを作製することで、性能増強を達成した報告があり、本材料にも適応できる可能性が高いと考えている。
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