2022 Fiscal Year Annual Research Report
身体化アバタとの心理的関係が対話に及ぼす影響の解明とアバタ活用ガイドラインの構築
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22J14271
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑田 裕二 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | アバター / 自己の本来感 / 物語的自己 / ユーザー受容性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,(A)ユーザと身体化アバタの心理的関係の分類,および(B)身体化アバタとの心理的関係がアバタによる認知・行動変容に及ぼす影響の解明に関する研究を進めた.
まず,アバタが人の認知や行動を変容させる技術であることを解説した講義の受講者に,アバタを用いて「なりたい自分」や,その際に考えられる懸念などをテーマにしたエッセイ課題を実施した.その結果,受動的,瞬間的,努力なしに「ゴール」として与えられたアバタとしての自己には偽物感がつきまとうとして抵抗を示す参加者が見られた.またアバタとしての自己に本来感を得るためには,アバタの特性を自ら獲得する「プロセス」や物語が物語的自己として適切に統合される必要があることが示唆された.このことから,ユーザと身体化アバタの心理的関係を形成する要因として,先行研究で指摘されていた「親密さ」や「主体感」のみならず,自己とアバタの物語の連続性に関する次元が重要になると考えられる.
また,外出困難者である従業員がロボット「OriHime」を遠隔操作することで接客等のサービスを提供する「分身ロボットカフェ」で働くユーザを対象とした半構造化インタビューを実施し,彼らがアバタを通じて経験した自己の変容について調査した.得られた語りについて質的な分析を行った結果,まず,アバタ体験は,どのような場所に置かれるか(アバタを気遣う他者が周囲にいるか等)によって大きく異なることが示唆された.さらにOriHimeというアバタは,それまでユーザの生活において安定的に維持されてきたパラメータ(例えば身体特性)を部分的に匿名化・編集することで,現在や未来を規定していた条件付けを解除し,改めて未来に対する展望を開き直すのだと考えられる.ここから,アバタ体験がユーザの自己概念を変容させることは,ユーザの過去・現在・未来に対する時間的展望の変容と関わっていることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インタビューではなくエッセイ課題を用いたり、VRSNSユーザではなく実環境におけるロボットアバタユーザへのインタビューを行ったりなど、当初の計画とは異なる方法論が採用された一方で、そうした研究の成果として、ユーザと身体化アバタの心理的関係を形成する要因として,先行研究で指摘されていた「親密さ」や「主体感」のみならず,自己とアバタの物語の連続性に関する次元が重要になることが示唆された.これによって物語的自己 [Gallagher 2000]や時間的展望という観点が導入されたことで、ユーザがアバタ体験を通じて経験する自己変容について探究することが可能になった。あるアバタ体験をしている際にユーザが抱いている時間的展望は、ユーザとアバタの心理的関係においても重要な役割を果たすと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初研究計画に記していたように、VRSNSユーザ同士の対話を参加観察法やインタビュー調査に基づいて質的に調べるとともに、アバタと自己の心理的結びつきの強弱によって、相手に対する発言や行動の利己性が変化するかを評価するような実験室実験を行う。これらを通じて当初の計画通り、多様な身体かアバタが共生する社会で、各ユーザのアバタに対する認識のずれが生み出す問題点を洗い出し、それらの対処法を検討する。得られた知見をアバタの社会活用という観点からまとめ、アバタを介したコミュニケーショントラブルを予防するためのガイドラインを構築する。
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Research Products
(15 results)