2022 Fiscal Year Annual Research Report
Trajectories of Anti-Poverty Movements Mapped from Frames and Coalitions: Policy Outputs in Social Movement Research
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22J20436
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森山 洸 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 社会運動 / 貧困 / 福祉政治 / 福祉国家 / 社会保障 / 新自由主義 / ネオリベラリズム / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2000年代後半に起きた年越し派遣村に代表される反貧困運動を対象として、社会運動がいかにして貧困という社会問題を定義・枠付けし、またどのようにして様々な分野の社会運動組織と連携することによって、マスコミや世論だけでなく政策決定にまで影響を与えることができたのかについて、社会学的に明らかにすることを目的としている。 以上の研究内容について、本年度は第一に、方法論の再検討から着手した。これまで用いてきた社会学的な方法に加えて、政治学的な方法についても視野にいれつつ、歴史的な出来事を記述する際に必要な議論を精査してきた。この成果の一部は、東京大学のグローバル・スタディーズ・イニシアティヴのイベントにおいて、社会運動に関する計量的な分析手法である「抗議イベント分析」を用いた反貧困運動の研究として報告した。 第二に、インタビュー調査と資料収集を継続して進め、それらを用いて分析を行ってきた。特にメディアとの関連で反貧困運動がどのような戦術を用いたのかということについて、第95回日本社会学会大会にて「反貧困運動における戦術革新のプロセス――年越し派遣村の成功体験とプレッシャー」という題目で報告を行った。学会報告を通して、今後の研究計画に関する重要な指摘を得たほか、社会運動研究者との交流を深めることができた。 最後に、本研究は世界の社会運動との比較をを考えることも視野に入れており、その点でアメリカのサンディエゴで行われたMobilization-SDSU conferenceへの参加は、非常に刺激的なものであった。リーマン・ショック後においては、反緊縮運動に代表される反新自由主義的な社会運動や、その運動に親和的な政党の台頭に対して学術的な関心が集まっている。そうした世界的な流れのなかに国内の反貧困運動を位置づけ、世界に発信するための準備として重要な一歩とすることができたといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象とする社会運動に関わったメンバーの総数を考慮するならば、インタビュー数はまだまだ不足しているというのは否めないが、運動のキーパーソンとなる人物への聞き取りは継続して行っており、現段階ではおおむね十分であるといえよう。むしろ、本年度は研究の全体的な枠組みとなる方法論や理論的な側面に関して十分に時間をかけて検討することができたことで、今後の具体的な調査や分析をスムーズに行うための万全な体制づくりができたという点を評価したい。 研究成果の面では、日本社会学会での報告と東京大学のイベントでの報告を行い、それぞれに分析結果を整理し、また重要な指摘を得られたことで意義深いものとなった。しかしながら、それらを論文として出すことにはまだいたっておらず、今後の課題として残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は第一にネット上のデータ収集も行う予定である。比較的新しい運動である反貧困運動は、インターネットやSNS上でも活発に発信していたため、そうした情報を収集し、整理し、分析を行う予定である。それらで得たデータを、QDAソフトなどで分析する。 加えて、本年度はインタビューをより多くこなしていく予定である。初年度でまた新たにインタビュー対象者を広げてきたため、そこでの人脈なども利用しながら、これまで聞けていなかった人物へのインタビューを進めていく。反貧困運動は、かつての高金利引き下げ運動(クレサラ運動)から続く弁護士や労働組合の全国的なネットワークを利用していたため、様々な地域の運動参加者たちのもとへ出向き、彼らがどのように動員され、連携し、政治に関与するのかについて聞き取りを行うほか、協力を得た上で、資料収集も同時並行的に行っていく。 加えて、昨年度はアメリカの学会に参加したほか、グローバル化の中での社会運動に関する研究動向に触れたことで、本研究を世界の反新自由主義的な社会運動の潮流に位置付けて分析することを検討してきた。今後は、引き続き海外の文献も広く読み、福祉国家論や民主主義研究、ポピュリズム研究なども視野に入れ、反貧困運動の位置づけを考えていく。 以上の作業を行いつつ、今年度は関東社会学会での報告を予定している。そこで得られた疑問やコメント等を参考にしつつ、可能であれば社会学評論での論文の投稿を模索していきたい。
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