2022 Fiscal Year Annual Research Report
紛争多発地域における最適な援助政策に関する実証研究
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22J20825
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡崎 慎治 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 開発経済学 / 武力紛争 / 経済開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、未だコンセンサスが築かれていない、紛争深刻化回避や紛争後復興のための効果的な援助政策を探るため、経済開発においてその役割が近年より一層注目されている交通関連部門を取り上げ、紛争多発地域における同部門の援助政策の与える影響を解明する。既存研究で厳密な検証のなされてこなかったその影響を検証することは、特に紛争多発地域における持続可能な開発や援助の効率性といった観点から意義のある取り組みである。依然紛争の多く発生するサハラ以南アフリカの広大な地域における道路建設の紛争の深刻化に与える平均的な影響を明らかにする本年度の研究成果は、望ましい開発政策を今後より詳細に明らかにしていく上で重要な基盤として位置づけられる。 本年度の研究の具体的な内容は、以下の二点にまとめられる。第一に、因果推論の分析枠組みにおいて、サハラ以南アフリカにおける道路建設が紛争の深刻化に与える平均的な影響を明らかにした。分析のために、同地域の39ヵ国にわたる複数の地理情報データを集め、地理情報をもとに分析可能な形にデータを集約した。構築したデータを用いて回帰分析を行った結果、道路建設は平均的には紛争犠牲者数の低下に寄与するが、政治的支配の弱い地域ではかえって紛争の深刻化に繋がる可能性が示唆された。分析結果の信頼性を高めるため追加分析に取り組み、これらの研究成果をワーキングペーパーにまとめた。第二に、武装集団の意思決定により具体的に迫りつつ追加的な政策的含意を得るため、理論モデルの考案に取り組んだ。これらの研究成果を国内学会で発表し、関連分野を専門とする国内外の経済学または政治学研究者からフィードバックを受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)実証分析に活用するデータベースの構築、(2)道路建設が紛争に与える平均的因果効果の分析、(3)紛争と交通アクセスに関する理論モデルの構築を行うことの三点を計画していた。以下の進捗状況を総合して、本研究はおおむね順調に進展していると評価する。 まず、基本となるデータベースは構築の工程は完了した。地理データを扱うプラットフォームであるArcGISを活用し、Pythonにより適宜集約作業を自動化することで、効率的にデータベース構築に取り組むことができた。国内外の研究者からのフィードバックを踏まえて、より厳密な議論のために新たな地理情報データをデータベースに追加する必要がある状況ではあるが、当初の想定通りの進捗である。 第二に、平均的因果効果の分析に関しては、本年度中に予定していた分析作業は終えることができた。しかし、厳密な因果効果の推定のために必要となる、道路建設のパターンの予測精度等に改善の余地がある。これまでに得られたコメントを反映させ、より信頼できる分析結果を得ることを目指しつつ、将来の開発援助政策に向けたより具体的な政策的示唆を得るために追加分析を続けている。 最後に、理論モデルの構築についても、おおむね予定通りの進捗である。本年度は、紛争、開発、交通関連分野の既存研究の理解を深めることで、モデル構築の準備を進めた。現実を適切に反映するために今後も改善が必要であるものの、より発展的な実証分析に採用する、武装集団の意思決定を捉えたモデルを考えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の分析に取り組む予定である。 まず、道路建設が紛争に与える平均的な因果効果に関してより厳密な検証を行うため、追加分析に引き続き取り組む。さらに、これまで受けたフィードバックに基づき、利用可能な新たな地理データを収集・整理して、これまでに構築したデータセットに追加する。そのようにして更新されたデータをもとに追加分析を行い、議論をより充実させる。また、リサーチ・アシスタントと協力し、データ整理や分析に利用したコードのレビューを行う予定である。これらの追加分析・レビュー作業をもとにドラフトを修正した後、国内外の学会で発表を行い、フィードバックを受ける。国際学術誌への投稿に向け、コメントを反映させてドラフトを改訂する。 上記の研究成果を踏まえ、武装勢力の意思決定を考慮する発展的な分析を進める。具体的には、これまでに考案した意思決定を捉えたモデルを改良し、そのモデルをデータに当てはめることで意思決定を規定するパラメータを推定する。その推定値を利用し、政策の実施可能性を念頭におきつつ、複数の仮想的な交通関連政策をモデル上で再現することで紛争発生への影響を評価し、望ましい交通政策および援助政策を明らかにする。この一連の分析は、追加となる詳細なデータと新たな分析上の仮定が必要となる。そのため、分析対象地域を限定し、モデルの仮定が満たされていることに留意しつつ分析を進める。対象地域としてはケニアを想定しており、フィールドワークを実施し、実務家や政策決定者等へのインタビューを行なう。それにより、現実に即したモデルを構築すると同時に、これまでの分析の議論をさらに充実させる。この発展的な分析についても、分析結果をまとめたドラフトを作成し、セミナー発表を通じて国内外の研究者からフィードバックを受けることで分析を改善していく。
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