2023 Fiscal Year Research-status Report
フォノン多体効果の第一原理手法の開発と新奇物性開拓
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22KJ1028
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増木 亮太 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | フォノン間相互作用 / 構造相転移 / フォノン / 構造物性 / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用期間の2年目では、興味深い構造相転移を示す例として強誘電金属の研究を行った。強誘電金属とは、金属でありながら、絶縁体の強誘電体のように極性相と非極性相の間で構造相転移を起こす物質のことを指す。強誘電金属の物質の例は非常に限られていたが、近年LiReO3が強誘電金属であることが新たに実験的に発見された。我々は、1年目で開発した有限温度の結晶構造を求める手法を用いて、Reサイトを置換したLiTaO3、LiWO3、LiReO3、LiOsO3に対して構造相転移の第一原理計算を行い、相転移温度の物質依存性を精度良く計算することに成功した。なお、LiTaO3は強誘電体、LiOsO3は強誘電金属であることがすでに知られている。さらに、原子間力定数を分析することで、強誘電金属の低い相転移温度の原因がクーロン相互作用の遮蔽による長距離相互作用の抑制にあることを直接的に確認することに成功した。計算結果に基づき、LiWO3についてもLiReO3とLiOsO3と同様に強誘電金属になることを理論的に予言した。 また、1年目から開発を進めていた自己無撞着フォノン理論や準調和近似に基づいて結晶構造の温度依存性を計算するプログラムを整理し、非調和フォノンの第一原理計算の公開ソフトウェアであるALAMODE packageの新バージョン(v1.5.0)として公開した。v1.5.0は、新機能のチュートリアル、原子間力定数を計算するときに原子の交換に関する対称性とacoustic sum ruleを矛盾なく課す機能や、逆格子空間の原子間力定数の計算の大幅な高速化の実装を含んでおり、従来のバージョンに比べてより高速に安定した計算を行うことができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、開発した計算手法を実験で興味が持たれている強誘電金属に適用し、その振る舞いを計算によって再現することに成功した。この研究により、強誘電金属の物理に関する理解が深まるとともに、開発した手法が様々な物質に適用できる汎用性を持っていることが確かめられたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
構造相転移に加えて、その付近で起こる興味深い現象の解明と予測を行うことが次年度の主な目標である。特に、輸送特性や応答に着目し、それらの異常について定量的に明らかにしたい。また、引き続き様々な物質への適用を行い手法を適宜改良していくこと、磁性がある系への拡張なども興味深い問題である。
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Causes of Carryover |
金額が大きな物品購入が発生しなかったため、また、フライトや宿泊をともなう遠距離の国内学会への出張が発生しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、PCなどの物品購入や、海外での長期滞在を含む複数の出張に予算を充てたいと考えている。
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