2022 Fiscal Year Annual Research Report
ノンレム睡眠におけるガンマ波増強のメカニズムと機能的意義の解明
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22J21230
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉本 愛梨 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ノンレム睡眠 / 徐波 / 概日リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
申請課題は、ノンレム睡眠におけるガンマ波増強のメカニズムとその機能的意義の解明を目的としている。機能的意義の解明のために、光感受性の抑制性ポンプをドパミン神経細胞特異的に発現させたトランスジェニックマウスを使用し、ドパミン神経細胞の不活性化を介したガンマ波の誘導を試みた。その結果、光照射による介入が自然睡眠を妨げてしまうという問題が生じた。そこで、睡眠を妨げずに睡眠中の特定の脳波を増強する方法として徐波フィードバックシステムを構築した。そもそも、脳波は集合的な神経活動を反映しており、睡眠・覚醒といった意識状態と相関した応答を示す。例えば、脳波の中でも高振幅でゆっくりとした周波数成分(0.3-4 Hz)の波は徐波と呼ばれ眠気の強い時間帯に観察される。また、睡眠は環境の明暗と関連することが知られ、ヒトでは暗い環境で眠ることが多く、マウスでは明るい環境で眠ることが多い。このように、脳波、照度、睡眠との関連は種をこえて一般的な見解が得られている。しかしながら、ヒト以外の動物にとって環境の明るさを自在にコントロールすることは困難である。ヒトにおいても、睡眠要求を感じてから電気のスイッチを消すという「行動」が必要であり、脳波の変化に瞬時に対応した環境で生活が出来ているとは限らない。このような「行動」なしに脳波で環境を制御できたとしたら、認知機能や生理機能にどのような変化が見られるのか、検討した知見は存在しない。構築した徐波フィードバックシステムでは、マウス前頭前野の徐波の強度を基準にした照度変化を試みた。すなわち、徐波の強度が高くなったタイミングに環境を明るくすることで、マウスを円滑に睡眠状態へ誘導した。先行研究では、環境因子である光が主導的に作用することで概日リズムの位相変化を引き起こすことが示されている。今後は、脳波起因の照度変化が睡眠を誘導し、概日リズムをも調節する可能性を探る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、自らが発見した現象である「ノンレム睡眠におけるガンマ波増強」について、その機能的意義の解明を目的としていた。この目的を達成するために、新たに遺伝子改変マウスのラインを作製し、ドパミン作動性神経特異的な光遺伝学的操作を行える系を確立した点で、当研究室およびプロジェクトに貢献した。光遺伝学的操作によって、ガンマ波の誘導を試み、その結果として光照射が動物の睡眠を妨げてしまうという問題を得た。そこで、介入方法を新たに考え、徐波フィードバックシステムを構築した。本フィードバックシステムは、オンラインで睡眠脳波を計測、定量、数秒単位でフィードバックすることを可能とし、オンライン計測技術の幅を広げた。フィードバックシステムの構築と並行して、記憶成績課題・不安様行動定量法の構築にも取り組み、新規物体認識試験の装置や、高架式十字迷路の作成を行った。これらを脳波記録と組み合わせられるようにし、今後ノンレム睡眠中のガンマ波増強の生理学的意義を検討する上で重要な準備と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の徐波フィードバックシステムでは、マウス前頭前野の徐波の強度を基準にしているが、脳波全帯域にわたるダイナミックな変化や、筋電図などの他の生理的パラメータの影響を受けやすくなっている。そこで、徐波の強度の算出の方法として、異なる帯域の強度を用いて正規化する、スライディングウィンドウを導入するといったシステム改善を行う。 システムが再構築できた際には、徐波フィードバックシステムを用いて、脳波起因の照度変化が睡眠を誘導し、概日リズムをも調節する可能性を探る。また、徐波フィードバックによりノンレム睡眠時間の延長や、記憶成績への影響が見込まれた際には、ノンレム睡眠中のガンマ波増強の有無を確認し、記憶の固定化という生理学的意義をもたらす可能性に迫る。
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