2022 Fiscal Year Annual Research Report
局所エントロピーの実時間解析に基づいた原子・分子レベルでの熱移動過程の理論的解明
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22J21975
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根岸 直輝 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 経路積分 / コヒーレント緩和 / 電子励起状態 / フランク=コンドンの原理 / インパルス励起 / 熱揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は外部環境の影響を受けた際の分子振動状態を記述するため, 異なる固有振動数と極小点を持つ二つの振動子間の状態間遷移を記述する時間相関関数を, 経路積分法より解析的に求めた. 現代の量子化学計算法において時間相関関数はユニタリーな時間発展を記述するため, コヒーレント緩和が記述されないなどの問題が残っておりこの部分をまず解決する必要があった. そこでコヒーレント緩和は溶媒の熱運動による効果が支配的であるという仮定の下で, 溶媒運動をガウス過程によって近似しRISM-SCF-cSED法によってコヒーレンスの減衰を統計力学的に計算するフレームワークを作った. 作成された新しいフレームより改良された時間相関関数は, インパルス的に振動子の形状が変わった後の緩和過程を記述するものであり, 溶液系におけるフランク=コンドンの原理を計算することをも可能にする応用性のある手法となった. 実際に, 核酸の類似体であるチオシトシンの1H-keto体について今回作成した手法を高精度な電子励起状態計算手法である拡張された多配置擬縮退二次摂動論(XMCQDPT2法)に適用した結果, 紫外可視吸収スペクトルに特徴的な100 nmオーダーの吸収バンド幅の見積りや, 溶媒の種類に依存して観測量が変化するソルバトクロミズムを見出すことに成功した. さらにブロードニングに最も貢献している溶質分子の振動モードおよび溶媒和相互作用モードを抽出することができるようになり, 励起後において最もエネルギー的な揺らぎが大きい運動自由度が何かを見出すことを可能にした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は, 【研究実績の概要】でも述べた通り溶液内電子状態のインパルス励起後におけるコヒーレント緩和を記述する数値計算のスキームを作ることに成功した. 本研究で数値的に算出した紫外可視吸光スペクトルは, 分子スケールの相互作用のみから評価されたという意味で新規な手法であり, 今年中に国際雑誌に投稿する予定である. 尚, 今回提案した計算手法の最大の特徴は時間発展形式によって吸収スペクトル線を評価するプロセスが出来上がっていることである. スペクトル線を実時間形式で表すこと自体は線形応答理論の域を超えるものではないが, 溶媒構造の熱揺らぎの取り扱いを, 注目系と熱浴が互いに無矛盾になるように取り扱うようなフレームは線形応答理論の枠組みを超える. 現代まで熱浴との相互作用を記述する量子系の時間発展方程式は, 開放量子系の物理学を専門とする研究者らによって精力的に研究が推進されている. 一方で, 溶媒の化学種などをうまく取り込んだ時間発展系の議論は発展途上にある. 本研究の目的である熱輸送と化学種の相関性を本格的に議論する上で必要な有効相互作用の算出にも関連しているとも言えるため, 本課題の目的である熱輸送の議論を進めていく上での足がかりとなりうると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
溶媒の熱揺らぎ効果を含めた, 溶質分子のインパルス応答を書くフレームは出来上がった. そこで本年度は以下2点を重点的に調査し反応分子内の熱輸送を議論する. (1) 熱を帯びた触媒金属のモデルハミルトニアン及び二酸化炭素などの3原子分子間との結合を記述する有効相互作用を導入する.パラメータは金属及び溶媒の温度, 反応分子の固有振動数及び分子との振動カップリングの3種類を振る. 有効相互作用は反応分子が接触した時刻を境にインパルス的に全系のハミルトニアンが変化する外場として与えることとする. この時の金属は一次元tight-binding modelで電子自由度を与えられたハミルトニアンと一次元Debye modelで振動自由度を与えられたハミルトニアンの二つを勘案する. 数値計算では温度をランダム力として与えたLangevin力学計算を行い, 時間発展の軌跡を逐一記録する. 理論解析では, 上述の有効相互作用を外場項として取り扱った線形応答理論, 及び階層型運動方程式に基づいた時間発展から時間相関関数を算出する. 【後期(10月-3月)の計画】 分子振動の自由度を6員環有機分子程度まで増やし実在系に近い系の運動方程式を考察する. パラメータの設定および数値計算と理論解析の手法は前期と同じ方法を使う. 理論解析では, 局所エントロピー導入による時間発展方程式の変形を行いエントロピー流を定義して熱の流れを議論できるようにする. この熱の流れとは振動モード座標によってラベル化されたものであり, 振動間のエネルギーのやり取りを局所的に定量化した示強性の物理量である.
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Research Products
(2 results)