2022 Fiscal Year Annual Research Report
Identification of organic matter utilized by pathogenic or drug resistant Escherichia coli in environmental water and control of their growth through organic matter control
Project/Area Number |
22J22409
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上原 悠太郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ノンターゲット分析 / 精密質量分析 / 微生物再増殖 / 都市河川 / 水道水 / 大腸菌 / 緑膿菌 / LC-MS |
Outline of Annual Research Achievements |
滅菌処理を施した都市河川水中で大腸菌を植種培養した結果、実験を行った全ての都市河川水において、無機培地内で培養した場合と比較し有意な増殖が確認された。このことから大腸菌が都市河川水中の溶存有機物を基質として利用し増殖していることが示された。培養後の河川水試料は減圧蒸留による濃縮処理を施した後、高速液体クロマトグラフ-高分解能精密質量分析計(LC-MS)による溶存有機物のノンターゲット分析を行った。大腸菌を植種した河川水としていない河川水のマススペクトルを比較し、植種した系で検出強度が低下した成分を基質候補としてスクリーニングした。基質候補の多くは単一の地点でのみ検出されたことから環境下において大腸菌は特定の有機物に限らず利用可能な有機物を様々に利用している可能性がある。基質候補に対して、MS/MS分析による構造推定を行った結果、C10H20O3は3-ヒドロキシデカン酸と推定され、純品との比較により同定がなされた。この物質は大腸菌の基質とは報告されていないが、唯一の炭素源として与えた結果増殖が確認され基質であることが認められた。定量分析の結果、この物質は都市河川水中に6.7μg/L溶存し, この内1.1μg/Lが大腸菌増殖に利用されたことが分かった。本年度の研究においては1物質のみしか特定、定量を行うことができなかった。しかし、環境水中にマイクログラム程度でしか存在しない未知物質に対しても分析が行えることは今度環境水中における細菌の増殖実態を解明するうえで極めて強力な分析ツールになるといえる。 これに加えて、本年度は水道水と緑膿菌を対象として同様の手法により基質のスクリーニングを試みた。基質候補を幾つか検出できたことから、来年度以降に水道水中での細菌の再増殖実態の解明に切り込める見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究では、高速液体クロマトグラフ-高分解能精密質量分析計(LC-MS)を用いたノンターゲット分析によって、都市河川水中に溶存する大腸菌の増殖基質候補を多数スクリーニングできた。その1物質についてはMS/MS分析による構造の同定、純品試料を与えたことによる基質の特定、都市河川水中の存在量や増殖全体に対する寄与度の定量まで評価することができた。 これに加えて、本研究の最終的な目標である有機物制御による持続的な細菌増殖抑制の検証が求められている水道水および水道水中で生残する細菌の組み合わせに対しても基質のスクリーニング実験を行った。都市河川水と大腸菌の組み合わせ同様に基質候補のスクリーニングが可能であることは確認したが、こちらは年度内に実施した実験回数が少なく基質の特定までには至っていない。しかし、水道水中に存在する基質がスクリーニングできる見込みが出たことにより、単なる概念実証(PoC)にとどまらない社会実装まで見据えた研究となった。 2022年度には大腸菌基質スクリーニングと定量、ノンターゲット分析の試料前処理法の検討について、それぞれ国内学会で1件ずつ発表を行った。また、水道水中での緑膿菌の増殖ポテンシャルと基質スクリーニングについて国際カンファレンスで発表を行った。研究そのものについては当初の計画を上回る進展をみせており国内外において学会発表も複数回行っているものの、査読付き学術論文の受理にまでは至っていないため(2)おおむね順調に進展している。とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目標は有機物制御による持続的な細菌増殖抑制が実現可能か検証することにある。申請時の計画では増殖の度合いが大きく増殖抑制が達成されたか評価することが容易であることから、大腸菌および都市河川水を対象として概念実証を行う予定であった。しかしながら、本研究で提案する概念が最も求められているのは上水道分野であり、特に塩素処理が効きにくい日和見細菌や薬剤耐性菌の再増殖制御は安全な水道供給において急務とされている。 2022年度の研究において大腸菌および環境水を対象としたスクリーニング分析は一定の成果が得られたことから、以降は水道水および水道水中に存在する細菌を主な対象としてスクリーニング分析を行う予定である。水道水は環境水よりも有機物濃度が低く、水道水中に生残する細菌は増殖速度が大腸菌よりも遅いことから、測定時のプロトコルの一部修正が必要である。質量分析および試料前処理に関する検討は既に十分になされた。培養中の菌数推移の測定については寒天培地を用いた場合とフローサイトメーターもしくは顕微鏡観察による細菌染色を用いた場合で値が一致せず、一部細菌は長期間の低栄養下での培養によりコロニー形成能が低下している可能性が疑われる。これについては引き続き分析と考察を続ける予定である。 2023年度には日和見細菌や薬剤耐性菌の基質のスクリーニングと特定を進める。また、基質の由来と環境中および水処理中での消長分析により、2024年度に計画している「有機物制御による大腸菌増殖制御のための水処理システムのモデル作成と評価 」のためのデータを取得する。
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