2023 Fiscal Year Research-status Report
クロスβ性ペプチドナノ構造の精密構築とその機能創出
Project/Area Number |
22KJ1138
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
恒川 英介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | ペプチド / フォールディング / 自己集合 / 金属配位 / βシート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではこれまで、単独では特定の配座へとフォールディングしないような短いペプチドと金属イオンによる自己集合によって、金属ペプチド鎖をβシート構造へと配座固定することで、βシートが一次元に集積したクロスβ性ペプチド錯体の単結晶中での精密構築を達成している。昨年度までに、部分的にD体を導入したペプチド分子を用い、有する凝集性を落とすことで、溶液中でのβシート構造の観察に近づくことができた。これらD体を含むペプチドの結晶構造からは4つのペプチドがβシートを形成している様子が確認されており、 間接的に溶液中で4量体のβシート構造が安定化されていることを示す結果となった。 今年度はこのような無限に会合するβシート性ペプチド錯体について、種々の条件検討を行うことで、 溶液中においてこれを4本鎖へと精密に制御することに成功した。一般的には多点水素結合により、凝集速度が著しく速いβシート構造において、ペプチド二つ、金属二つからなるような大環状構造を二つ集め、これらが絡まりを形成するように錯体を形成させることで、四本鎖のβシートを形成すると同時に、カテナンと呼ばれるトポロジカルな絡まりを有する分子を形成することに成功した。このカテナンの機械的な絡まりから生じる近接効果を利用することで、本来は会合数の制御が難しいβシート構造を定量的に四本鎖に制御できたと考えられる。 この無限に会合するモノマー分子をカテナン分子の絡まりを用いて四量体に制御する手法は、βシートの分子構造解析という分子生物学的な知見を広げるだけでなく、合成化学の分野においても新たなコンセプトになりうる考えており、多大な波及効果が期待できる。現在、論文投稿に向けて準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたβシートの溶液中での観察を、定量的に会合数を制御した上でNMR測定において分子レベルで解析することができたため。当初、無秩序な会合数が予想されていたβシートを観測する手段は、その他の分光学的な手法を用いて、さまざまなオリゴマー構造の平均像を観測する、というものに止まるであろうと考えていた。しかしながら、定量的な構築が可能になったことにより、その構造がNMRにて詳細に観測できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、まず、より会合数を増やしたβシート構造の溶液中での構築と観測を行っていきたい。現在、結晶構造中においてβシート構造からなる螺旋状のポリマー構造の構築に成功している。このらせん構造の溶液中での構築と観測手法の確立を進めていく。 また、これらと並行してβシート構造を精密構築することで得られる新たな機能発現を目指していきたい。その足掛かりとして考えているのが、βシートに囲まれた空間を利用したホストーゲスト化学への発展である。βシート構造は形成すると一種の壁として空間を隔てることができると考えている。この特性を利用してβシートに囲まれたナノ空間を定義し、ゲスト分子の包接という所属する研究室の研究分野に新たな設計をもたらしたい。
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