2022 Fiscal Year Annual Research Report
レーザー冷却放射性同位元素による反物質消滅機構の解明
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22J23476
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永瀬 慎太郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 精密分光 / 原子核(実験) / 量子エレクトロニクス / 電気双極子能率 / レーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、物質創生の起源解明に向けて、フランシウム(Fr)異種同位体を同時にレーザー冷却・トラップし、超精密分光を行うことで、電子の電気双極子能率やCP対称性を破る相互作用の効果を観測することを目指している。安定同位体を持たないFrを用いた実験は、一年間を通して数日の加速器実験に限られるため、安定アルカリ原子であるルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)原子を用いて、異種原子の同時レーザー冷却やトラップおよび精密分光の技術基盤を構築している。 本年度は、RbとCsを同時に磁気光学トラップ(MOT)するための光源開発を行った。機械的振動やミスアライメントに対して鈍感であると共に、共振器を密閉し大気圧変動による周波数ドリフトを抑制した、干渉フィルター型外部共振器半導体レーザー(ECDL)を独自に開発した。原子セルのmodulation transfer分光を行い、周波数安定化回路を作製し、開発したECDLの周波数安定化が完了した。MOT中のRbおよびCsは光格子トラップ中に導入する予定であり、光格子トラップに必要な波長1064 nmで発振する大強度レーザー光源が開発され、実験に必要な光源のほとんどが整備された。 Frを用いた加速器実験においては、数日間の実験を通して安定的にFrをMOT領域へ導入することが可能となった。FrのMOTに向けて、トラップ効率が課題となっている。本実験では、MOT効率向上のために、内壁にパラフィンをコーティングしたセルを用いてMOT領域を囲んでいる。パラフィンは高いアルカリ原子吸着防止能力を持つとされているが、デガスが多く真空度悪化が問題となる。この真空度悪化を抑制するために、パラフィンコーティングを施したセルを極低温に冷却する装置の開発を目指している。現在、ペルチェ素子と冷却水を用いてセルを-30°Cまで冷却することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標の一つは、RbおよびCsの磁気光学トラップ(MOT)実現に向けた光源開発と周波数安定化であった。MOTのための合計4台の外部共振器型半導体レーザーの開発が完了し、RbとCsを用いたオフライン実験の光源の準備が整った。 Frを用いたオンライン実験においては、210FrのMOTを目標としていた。MOT領域まで安定的に210Fr原子を供給することが可能になったことにより、MOT効率をより定性的に評価できるようになった。MOT効率の向上を目指した新規装置を設計・開発し、FrのMOTを実現させることが課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Frの超精密分光のための光格子トラップの技術確立を、安定原子であるRb、Csを用いて行う。また、EDMの超精密測定を見据えて、測定の主要な誤差要因となりうる環境磁場変動の評価を、光格子中にトラップされたRbおよびCsを用いて行う。極めて安定な磁場環境を生成するために、高温超伝導体(HTS)線材で形成されるパンケーキ型コイルの開発を検討している。まずはHTS線材の性能評価、HTSコイルを用いた磁場生成試験、磁場の安定性を試験する。HTSコイルの試験を参考に、クライオスタットの開発を進める。 HTSコイルで形成した安定な磁場環境下に2種のアルカリ原子を高効率で輸送するために、円錐型のミラーを用いたMOT(conical MOT)の導入を検討している。conical MOT中に捕獲したRb、Cs原子を光格子トラップに移行させ、moving latticeによって安定な磁場環境下へ2種原子を高効率で移送させることを目指す。 Fr実験においては、FrのMOT実現に向けて、MOT効率の向上が課題となっている。現在、MOT領域をセルで囲み、セル内壁にアルカリ原子吸着防止コーティングを施して、セル内壁に吸着したFrを再度脱離させて複数回MOT領域を通過させることで、MOT効率向上を目指している。コーティング材であるパラフィンは高い吸着防止能力を持つとされているが、デガスが多く真空度悪化が問題となる。この真空度悪化を抑制するために、パラフィンコーティングを施したセルを極低温に冷却する装置の開発を目指している。現在、ペルチェ素子と冷却水を用いてセルを-30°Cまで冷却することに成功しており、この低温領域下におけるMOT効率を評価するとともに、さらなる低温領域への到達を目指す。
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Research Products
(2 results)