2023 Fiscal Year Research-status Report
近現代の西アフリカ・イスラーム思想史研究の構築:クルアーン解釈書の分析から
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22KJ1192
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
末野 孝典 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2026-03-31
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Keywords | イスラーム / スーフィズム / 西アフリカ / クルアーン解釈学 / イブン・アラビー / 文字神秘主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、アラビア語写本調査と二件の研究発表および一本の論文投稿を行った。8月半ばにニジェールでアラビア語写本調査を実施することを当初予定していたが、軍事クーデターの発生により計画の変更を余儀なくされた。しかし、1月~2月にモロッコの首都ラバトに置かれる国立図書館および王立図書館で実施したアラビア語写本調査では、想像以上の成果を挙げることができた。その理由としては、前年度に先行研究に基づいて作成したタフスィール著作目録をもとに写本調査に臨んだが、これまで確認されていなかったアブド・アッラーフ・ブン・フーディーのタフスィール著作『解釈の光』とその補遺作やムフタール・クンティーのタフスィール著作『クルアーンの真理に関する本質理解』といった新たな写本を発見することができたことによる。 またタフスィール学とは聖典クルアーンを解釈する学問である以上、当然そこには神が明瞭なアラビア語というかたちで啓き示したコトバをどのような立場から理解しようとしてきたのかが重要な論点となる。要するに、神のコトバの意味を探究するに際して、文章・単語・文字のいずれかのレベルでクルアーンを解釈するという事態が起こる。その最小単位であるアラビア語の個別文字がどのように神秘的に解釈され得るのかを理解するための視座を得るべく、サハラ以南アフリカの思想家たちの間でも言及があり、文字神秘主義に造詣が深いイブン・アラビーとアブドゥルカリーム・ジーリーの二人の神秘思想家を取り上げ、上記の内容に関する二件の研究発表を行った。これらの研究発表を通して、報告者は基本的な文字解釈の議論の組み立てかたをある程度理解することができたと考えている。加えて、イブン・アラビーによるワーウ文字に対する神秘的解釈を考察した学術論文を一本掲載することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先述の通り、当初の研究計画を変更する必要が生じたが、本研究課題で取り上げる3名の思想家タフスィール著作をひとまず全て入手することができ、順調な滑り出しといえる。また本研究課題に関連する文字神秘主義についての論文を執筆し投稿することもできたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに蒐集したタフスィール著作群の読解・分析を進めていく予定である。具体的に言えば、クルアーンを解釈する立場が明瞭に現れる章句として知られる第3章第7節に焦点を当てることで、それぞれの思想家ごとの解釈上の立場を明らかにする。さらに各タフスィール著作がどのような先達の著作群を引用していたのか、それに依拠しながら解釈を施していたのかを整理する。こうした作業を通じて、西アフリカにおいてクルアーンを解釈する際の主要なトピック群を明らかにすることを目指す。また必要に応じてナイジェリアやモロッコなどでアラビア語写本調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
昨夏にニジェールでアラビア語写本調査を実施する予定であったが、軍事クーデターの発生により、当初の研究計画を大幅に変更する必要に迫られた。そのため、本研究課題に関連する研究書籍を可能な限り購入し、年度後半に実施したモロッコでのアラビア語写本調査の費用に割り当てることにしたが、若干の次年度使用額が発生することになった。
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