2022 Fiscal Year Annual Research Report
木材腐朽菌が放散する揮発性有機化合物を介した微生物間クロストーク
Project/Area Number |
21J22329
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
堀川 翔子 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 木材腐朽菌 / 揮発性有機化合物 / MVOCs / 生物間相互作用 / 菌糸成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
微生物は代謝の過程で揮発性有機化合物(Microbial Volatile Organic Compounds; MVOCs)を放散する。MVOCsの中には特定の生物に対して活性を持つものが存在することが明らかになっており,その特異な生物活性を通じて,生物間相互作用における情報伝達物質として機能することが示唆されている。木材腐朽菌も,他の微生物と同様に,MVOCsを放散することが明らかになっており,放散される化合物の種類等に関する知見は蓄積されつつある。申請者らは,自然界において複数種の木材腐朽菌が同一基質上(例;木材)に生息すること,および,真菌同士の相互作用によって放散されるMVOCsが変化することに注目し,木材腐朽菌間においても,MVOCsを介した相互作用が存在すると仮説を立てた。本研究の目的は,前述の仮説を立証することであり,具体的には,木材腐朽菌におけるMVOCsの受容・認識機構を明らかにすることで,仮説の立証を目指す。 令和4年度は,令和3年度に実施した実験を継続し,MVOCsの濃度変化が木材腐朽菌の菌糸成長に及ぼす影響を評価した。その結果,MVOCsの種類や濃度によって異なる影響が見られ,特異的に菌糸成長を変化させるMVOCsと菌種の組み合わせが見出された。その後,MVOCsが木材腐朽菌に与える影響を遺伝子レベルで調査するため,MVOCs暴露前後での比較トランスクリプトーム解析を実施し,MVOCsの暴露によって発現が変動する遺伝子の探索を試みたが,本年度に実施した条件ではターゲットとしていた遺伝子の発現変動は見出せなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は,令和3年度に実施した実験を継続し,MVOCsの濃度変化が木材腐朽菌の菌糸成長に及ぼす影響を調査した。6種のMVOCsを様々な濃度で暴露したときの菌糸成長を評価した結果,MVOCsの濃度によって,菌糸成長に対して異なる影響を及ぼした。また,MVOCsの種類によってもその影響が変化したことから,木材腐朽菌はMVOCsの構造および濃度を識別できることが示唆された。また,菌種によって影響を及ぼすMVOCsが異なっていたことから,菌種ごとにMVOCsの感受性が異なることが示唆された。以上の内容については,現在論文執筆中であり,国際誌に投稿予定である。 さらに,MVOCsの暴露が菌の代謝に与える影響を遺伝子レベルで調査するため,MVOCs暴露前後での比較トランスクリプトーム解析を実施した。ここでは,ゲノム情報がすでに公開されているGanoderma lucidumを対象とし,これまでに実施した実験において,本菌の有意な菌糸成長変化を引き起こしたMVOCsを暴露した菌体における遺伝子発現状況を調査した。その結果,多くの生物で嗅覚受容体が含まれることが知られているGタンパク質共役型受容体の発現は確認できたが,これらの遺伝子のMVOCsの暴露前後での発現変動は見出せなかった。現時点では,暴露試験を少ない条件でのみ調査しているため,令和5年度においてもその条件検討を継続する必要であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は,木材腐朽菌におけるMVOCs受容・認識機構の解明を試みる。具体的には,令和4年度に行った遺伝子発現変動調査のためのMVOCs暴露実験の条件検討を継続して行い,適切な条件を見出す。見出された条件において,MVOCs暴露/ 非暴露での比較トランスクリプトーム解析を行い,MVOCsと特異的に反応する受容体を網羅的に探索する。令和4年度に,多くの生物でMVOCsの受容に関与すると考えられているGタンパク質共役型受容体の発現が確認されたため,これらを主なダーゲットとする。また,トランスクリープトームデータから得られる発現変動遺伝子の情報をGO解析をはじめとする様々な解析に供することで,MVOCsの暴露によって活性化あるいは非活性化する代謝系を特定することで,MVOCsが受容された後,菌体内においてどのように認識されているかを解明する。これらの結果をもとに,木材腐朽菌間相互作用において,MVOCsがどのような役割を果たしているか考察する。
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