2022 Fiscal Year Annual Research Report
犬肺組織由来オルガノイド培養法を用いた新規肺がん・呼吸器疾患研究モデルの開発
Project/Area Number |
22J21990
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 よもぎ 東京農工大学, 大学院農学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 犬原発性肺がん / オルガノイド培養 / 呼吸器疾患モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年から2022年の間、10頭の原発性肺がん罹患犬からがん組織と隣接する正常肺組織を採材した。その内、肺がん6検体と正常肺4検体から三次元オルガノイド培養に成功した。培養当初、各オルガノイドの増殖性に違いが認められたことから、犬の肺組織、特に原発性肺がんに適した培養液の検討を実施した。その結果、重要な培養サプリメントの存在が明らかとなり、新たな培養液を用いて培養した検体では比較的安定してオルガノイド培養が可能となり、犬原発性肺がんオルガノイド培養法が確立された。作製した肺がんオルガノイドのパラフィン切片を作成し、H&E染色やIHC染色を実施したところ、肺がんオルガノイドが元のがん組織の構造やマーカー発現といった分子構造を模倣していることが示され、新たな実験モデルとしての有用性が期待できる。 肺がんオルガノイドの薬剤感受性を評価するために7種の抗がん剤と2種の分子標的薬を処置したところ、薬剤や検体ごとに感受性が異なることが示された。このことから抗がん剤に対するがんの感受性は由来する個体ごとに異なる可能性が示唆され、生体への薬剤投与前にこれらのスクリーニング検査を実施することが有用であること推測される。 肺がんおよび正常肺オルガノイドに対するRNAシークエンス解析では、正常肺オルガノイドと比較して肺がんオルガノイドで11個の遺伝子が高発現していた。またGSEA解析により特徴的な遺伝子セットの発現性の違いを評価したところ、肺がんオルガノイドではMEK経路と呼ばれる細胞増殖経路に関連した遺伝子セットの発現が高くなっており、PCRやウェスタンブロッティング法においてもMEK経路の下流分子であるERKやc-Mycの発現が高いことが確認された。そこで現在は新たな治療ターゲットとしてMEK阻害薬であるトラメチニブに注目し、トラメチニブのがん増殖抑制効果について検証している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時当初、犬の肺がんオルガノイドと正常肺オルガノイドを用いた遺伝子解析(RNAシークエンス解析など)は令和5年度中に実施予定としていた。今回その実験も令和4年度中に終え、さらにCRISPR/Cas9システムを用いた正常肺オルガノイドの遺伝子ノックアウトモデル作成の準備にも取り掛かっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
肺がんオルガノイドと正常肺オルガノイドとの遺伝子解析の結果をもとに、MEK経路に注目し、MEK阻害薬であるトラメチニブに関する実験をさらに掘り下げ、細胞だけでなくマウスを用いた生体への効果なども確認していく予定である。また同時に現在は正常肺オルガノイドを用いた遺伝子ノックアウトモデル作成を準備中である。正常肺オルガノイドに対してCRISPR/Cas9システムの利用可能性を検証し、さらにがん関連遺伝子やRNAシークエンス解析においてがんオルガノイドで高発現していた遺伝子に対してノックアウトを試み、がん化実験モデルとしての有用性を検証する(令和5年度)。加えて、正常肺オルガノイドに対してアデノウイルスやジステンパーウイルス、インフルエンザウイルスといった呼吸器疾患に関連したウイルス感染実験に向けて実験計画の作成・準備を進める予定である(令和6年度)。
|