2021 Fiscal Year Annual Research Report
本質的な酸素欠損層を持つ新型イオン伝導体の探索と構造物性
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21J22818
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
作田 祐一 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 酸化物イオン伝導体 / 中性子 / 結晶構造解析 / 本質的な酸素欠損層 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化物イオン伝導体は固体酸化物形燃料電池(SOFC)等に応用でき、発電効率の向上とコスト削減のためには、中低温でより高い酸化物イオン伝導度を示す材料が必要である。さらに、従来のSOFCの発電効率が下がらないようにするために、プロトン伝導度を抑制することも重要である。本研究では、本質的な酸素欠損層を持ち、比較的高い酸化物イオン伝導度を示すBa7Nb4MoO20に焦点を当て、Nbの一部をCrで置換した新物質Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2の物性測定と構造解析を行った。 Ba7Nb4MoO20の酸化物イオン伝導度をさらに向上させるために、5価のNbの一部を6価のCrで置換し、酸素量を増やした新組成Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2の合成に成功した。Crを添加したBa7Nb4-xCrxMoO20+x/2の空気中において直流四端子法で測定した電気伝導度σは、母物質Ba7Nb4MoO20より高いことがわかった。各温度において、組成Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2 (0≦x≦0.5)の中で Ba7Nb3.8Cr0.2MoO20.1(x=0.2)のσが最も高かった。組成Ba7Nb3.8Cr0.2MoO20.1は304℃と604℃において広い酸素分圧範囲(10^-26 ~1 atm)でσは酸素分圧に殆ど依存せず、高い化学的・電気的安定性を示すことが分かった。また、乾燥雰囲気下と湿潤雰囲気下においてBa7Nb3.8Cr0.2MoO20.1のσは殆ど同じであり、プロトン伝導度の抑制にも成功した。高温中性子回折測定とリートベルト解析によってCrが本質的な酸素欠損層の近くのサイトに存在していることが分かった。さらに、最大エントロピー法によって、格子酸素と格子間酸素を介して酸化物イオンが本質的な酸素欠損層内を2次元的に拡散することが明らかになった。 また、本質的な酸素欠損層を持つBa3MoNbO8.5とBa3WNbO8.5の酸化物イオン伝導度の活性化エネルギーの違いについて,酸素欠損層の上下に位置するカチオン間の距離が関与していることを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、本質的な酸素欠損層を持つBa7Nb4MoO20系材料に注目し、元素置換した新物質の合成、物性測定と結晶構造解析を中心に研究しており、以下に記すように、おおむね順調に研究が進んでいる。 2021年度の主たる研究成果は、本質的な酸素欠損層を持つ新物質Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2の発見、その構造と輸送特性の評価である。Ba7Nb4MoO20の5価のNbの一部を6価のCrで置換し、酸素量をx/2増やした新物質Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2の合成を行った。母物質より空気中において直流四端子法で測定した電気伝導度σを向上させることができた。各温度において、組成Ba7Nb4-xCrxMoO20+x/2 (0≦x≦0.5)の中で Ba7Nb3.8Cr0.2MoO20.1(x=0.2)のσが最も高いことも見出した。このBa7Nb3.8Cr0.2MoO20.1(x=0.2)のσは広い酸素分圧範囲(10^-26 ~1 atm)で酸素分圧に殆ど依存せず、高い化学的・電気的安定性を示すことが分かった。また、Ba7Nb3.8Cr0.2MoO20.1(x=0.2)のプロトン輸率は母物質より低い値を示し、プロトン伝導が抑制されている。次に、中性子回折測定とリートベルト解析、最大エントロピー法によって、元素置換したCrの位置を決定し、酸化物イオンが二次元的に移動していることが明らかになった。以上の結果をまとめ、査読付き論文(J. Ceram. Soc. Jpn.)に第一著者として出版することができた。 また、本質的な酸素欠損層を持つBa3MoNbO8.5とBa3WNbO8.5の酸化物イオン伝導度の活性化エネルギーの違いについて、酸素欠損層の上下に位置するカチオン間の距離が関与していることを考察した成果も査読付き論文(J. Phys. Chem. C)に共著者として出版することができた。 以上の様に、Ba7Nb4MoO20系材料とBa3MoNbO8.5系材料の研究成果によって2報の論文を出版することができた。また、本質的な酸素欠損層を持ち、高い伝導度を示す新しい酸化物イオン伝導体も発見しつつあり、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き本質的な酸素欠損層を持つ新しいイオン伝導体の探索、構造と伝導度の相関についての研究を推進する。 2021年度に本課題の研究代表者作田が中心になって発見したBa7Nb3.8Cr0.2MoO20.1より高い酸化物イオン伝導度を示す組成を探索する。リートベルト解析や最大エントロピー法(MEM)によって得られた平均構造と計算的手法である第一原理分子動力学法による結果を組み合わせることで、新たに発見したBa7Nb4MoO20系材料が高い酸化物イオン伝導度を示す要因をさらに明らかにする。 また、本質的な酸素欠損層を持ち、高いイオン伝導度を示す材料探索も並行して行う。現在、本質的な酸素欠損層を持ち、高い伝導度を示す新しい酸化物イオン伝導体も発見しつつある。そこで、今後は、この新しい酸化物イオン伝導体の構成イオンの一部を置換して電気伝導度などの輸送的性質を評価する。また、高い伝導度を示す組成を中心に、構造解析と試料の詳しい評価も行う予定である。具体的には、酸化物イオン伝導度やプロトン伝導度を評価するために加湿雰囲気での伝導度測定と酸素濃淡電池による輸率測定を行い、熱重量測定によって温度による水の量の変化を見積もる。また、伝導度の酸素分圧依存性を調べて安定性の評価を行い、交流測定とインピーダンス解析によってバルク伝導度を求める。次に、放射光や中性子による回折測定を行い、リートベルト解析やMEMによって結晶構造とイオン伝導経路を調べ、高い伝導度を示す要因を結晶構造の観点から明らかにする。DFT計算や第一原理分子動力学法といった計算的手法も行い、実験結果と組み合わせることでイオン伝導度と結晶構造との関係性をさらに明らかにする。 本課題では以上の研究により、本質的な酸素欠損層を持つ新型イオン伝導体の探索と構造物性の解明を推進する。
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Research Products
(7 results)