2021 Fiscal Year Annual Research Report
異方縮小型の金属架橋カプセルを活用した分子圧縮による特異物性発現
Project/Area Number |
21J22874
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岸田 夏月 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 分子カプセル / 分子内包 / 平面状分子 / CH-π相互作用 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
扁球状の芳香族空間を有する配位結合分子カプセルの機能開拓を行った。これまでに、オルトフェニレン鎖で架橋したビスピリジン配位子とパラジウムイオンとの自己集合からなる扁球状の分子カプセルが、平面状やボウル型の分子を効率よく1分子で内包することを報告している。昨年度は、この分子カプセルの選択的分子内包能や、分子孤立化能を新たに明らかにした。 まず、扁球状分子カプセルは、平面状芳香族分子に対してCH-π相互作用点の数に起因する内包選択性を示した。周囲に12個の水素を有するコロネンとペリレン、トリフェニレンの混合物の中から、コロネンのみを100%の選択率で、1分子で内包した。同様に、10個の水素を有するピレン、アントラセン、フェナントレンでは、ピレンのみを内包した。理論計算より、ホスト-ゲスト間に多点のCH-π相互作用点が働いており、その数が多いゲスト分子ほど、選択的に内包されることが明らかになった。 また、扁球状分子カプセルの、平面状金属錯体の内包による孤立化機能を明らかにした。Pd(II)やCu(II)のアセチルアセトナト錯体は、水系溶媒中で分子プセルに定量的に1分子が内包された。疏水効果に加えて、アセチルアセトナト配位子のメチル基とカプセルのアントラセン環で多点のCH-π相互作用が働くことで、高効率な内包が達成された。特にCu(II)錯体では、内包前は、固体、室温状態で等方的な1つのブロードしたESRシグナルを示すのに対して、内包後は、固体、室温状態で異方的なESRスペクトルを示し、特徴的なg//テンソルが明瞭に観測された。これは、カプセルによりCu(II)アセチルアセトナトの分子間Cu-Cu相互作用が抑制されているためと考えられ、カプセルの孤立化効果が示された。同様の孤立化が、Cu(ll) ビス(3-メチルアセチルアセトナト)やCu(II)ポルフィン内包体でも観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に計画していた内容は達成できなかったが、扁球状分子カプセルの新たな機能を明らかにすることができたためである。最初の計画では、フォトクロミック分子や発光分子を内包することで、色調コントロールや安定化をねらいとしていたが、これらの分子は内包することができなかった。色素分子の嵩高さや溶解性の高さが要因であると考えられる。 一方で、扁球状分子カプセルが有機溶媒中で、平面状の分子に対してCH-π相互作用による特異な内包能を有することを明らかにした。平面状芳香族分子に対しては、内包選択性を有することが、内包競争実験により明らかになった。理論計算から、この選択性はホスト-ゲスト間のCH-π相互作用点の数に順ずることが示された。また、平面状金属錯体を、疏水効果と多点のCH-π相互作用によって高効率で内包した。特にCu(II)イオンを有する錯体分子では、カプセル内に内包することでゲスト分子間の相互作用を抑制して孤立化できることが、ESR測定により示された。これらの機能は、扁球状分子カプセルの内部空間の特徴的な形状に起因すると考えられる。ゲスト分子と強いCH-π相互作用を形成する一方で、π-π相互作用は小さいため、π共役の性質を大きく変化させることなく平面状分子を内包することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、内包による金属錯体の物性コントロールを試みる。まず、異常な平面構造を有する銅(I)錯体の合成に挑戦する。カプセルに内包した平面銅(II)錯体を化学的、電気化学的に還元し、平面銅(I)錯体の生成と、還元電位の変化や可逆性を観察する。電解質UV測定を行うことで、in situで分光学的な性質を調査する。次に化学的な還元を検討し、安定化や単離を試みる。平面銅(I)錯体の単離を達成したら、ESRや結晶構造解析により、ラジカルの状態や分子構造を厳密に解析する。さらにここまでの知見を活かし、より挑戦的な「金属錯体の圧縮による電子スピン制御」に取り組む。コバルト(II)や鉄(II)の錯体を内包し、配座を変形することで、高スピン/低スピンの切り替えに挑戦する。スピンの評価は磁化率測定により行う。また、配位子を変更し、配位構造とスピン状態の関係を調査する。 最終年度は、ラジカル種を内包し、内包状態や安定性の評価を行う。具体的には、例えばヘキサアリールベンゼンビイミダゾール(HABI)は、均等開裂により、平面状のラジカル生成物を生じる。これを扁球状カプセルで内包することで、ラジカル種の安定化を試みる。また、ビスジチオールビニルアントラセン(DTBA)をカプセルで内包し、電気化学的な酸化を検討する。このとき、CVスペクトルにおいて1電子酸化波が観測できるかを調査する。観測できなければ、DTBAに置換基を導入し、電子状態や内包状態を変化させ、さらなる安定化を試みる。1電子還元体が観測できたら、次に化学酸化により1電子還元体の単離に挑戦する。得られたラジカル内包体を熱や活性ガス、光に晒し、経時変化を追うことで安定性を評価する。ラジカルの発生や状態は、NMR装置、UV-vis分光光度計、CV測定装置、ESR分析に加えて、結晶構造解析によって詳細に評価する。
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