2022 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光性ラジカル前駆体を分子プローブとする高分子の力学的分子鎖切断解析
Project/Area Number |
22J21853
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山本 拓実 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | メカノケミストリー / 分子プローブ / 電子スピン共鳴 / メカノラジカル / 蛍光発光 / DFT計算 / 置換基効果 / 高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子は曲げや圧縮、超音波などの力学的な刺激によって分子鎖が切断され、メカノラジカルと呼ばれる反応活性なラジカル種を生成し劣化していく。本研究では、高分子の力学的刺激による劣化現象の詳細な調査実現にあたり、蛍光性ラジカル前駆体であるジアリールアセトニトリル (DAAN) を分子プローブに用いた新たなメカノラジカル検出手法の確立を目的に研究を行っている。2022年度は、分子プローブの設計指針確立を目指し、異なる官能基を有するジアリールアセトニトリル誘導体を20種類以上合成し、そのメカノラジカル検出能および蛍光特性について実験化学と計算化学を組み合わせながら詳細な解析を行った。 具体的には、メカノラジカル検出能については電子スピン共鳴 (ESR) 測定によるラジカル量の定量評価を行い、発光特性については固体蛍光スペクトル測定を行い評価した。さらに、密度汎関数理論 (DFT) 計算によって、分子プローブの分子の軌道エネルギーやメカノラジカル検出に必要な結合解離エンタルピーを算出した。 現在までの検討で、DAAN誘導体の置換基を変化させ、「メカノラジカルとプローブの反応性」「発生するラジカルの熱力学的安定性」「ラジカル中心の立体的保護による速度論的安定性」を調整し、メカノラジカル検出能を制御できることが明らかになった。また、蛍光特性についてはラジカル種の蛍光波長をDFT計算によって予測可能なことが示唆された。 新規に開発した分子プローブを用いて、代表的なエンジニアリングプラスチックであり高い耐衝撃性が知られているポリカーボネート由来のメカノラジカルを検出可能かを調査した。その結果、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) で観測することが困難な初期の分子鎖切断を検出できることが明らかになった。 これらの研究成果については論文にまとめ、本年度末に1報の投稿を完了、1報が投稿準備中となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、実験化学と計算化学を融合させることで、メカノラジカルを検出・可視化な分子プローブに求められる構造因子を解明することに成功した。その成果は国内外の学会でも評価されており、国際学会で1件、国内学会で2件の学会賞を受賞するに至った。これらの研究成果については論文化を進めており、1報が投稿済み、1報が投稿準備中となっているため「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した分子プローブを用いて、高分子の力学的刺激による劣化現象の詳細な調査を行っていく。昨年度までは粉末状態のサンプルを分析対象としてきたが、本年度はエラストマーなどの材料に分子プローブを添加することで、これまで困難であったバルク材料中でのメカノラジカルの検出・可視化を実現する。
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