2022 Fiscal Year Annual Research Report
ホウ素とπ電子系の緊密な相互作用による物質変換化学の開拓
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22J23124
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
村田 幸優 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ホウ素 / オレフィン / π配位 / 骨格転位 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、ホウ素と分子内のオレフィンとの緊密な相互作用がもたらす、含ホウ素環状π共役化合物のボロセニウムイオンへの骨格転位反応の機構解明に取り組むとともに、還元反応による新規な高活性ホウ素化学種の開発検討にも取り組んだ。DFT計算による詳細な骨格転位反応の調査を行うことでホウ素の高い電子欠損性が炭素-炭素結合の切断と形成を誘発していることを見出した。また、ボロセニウムイオンに対するヒドリド化試薬による還元反応では定量的にヒドリドが付加した中性ホウ素化合物が得られた。本化合物は室温で安定に存在できる一方、80℃まで昇温すると分子内のアルキル鎖のC-H結合を活性化して異性化した、多環式ホウ素化合物へと骨格転位することが明らかになった。本反応に対する中間体の捕捉検討や考察の結果、加熱することで分子内において高活性なホウ素化学種が発生し、活性の低い結合の切断が進行している可能性を示唆しており、非常に興味深い反応性を示していると考えられる。これらの成果は第32回基礎有機化学討論会にてポスター発表を、第103日本化学会春期年会にて口頭発表を行い、第32回基礎有機化学討論会においてはポスター賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ホウ素とオレフィンの分子内近接相互作用が誘起する骨格転位反応の機構解明とそれを利用した新奇炭素骨格構築反応の開発を目的としている。今年度の進展において、含ホウ素環状π共役化合物からのハロゲン引き抜き反応により生じた電子欠損性の高いホウ素カチオン種が分子内のオレフィン部位と緊密に相互作用することでボロセニウムイオンへと骨格転位する反応の反応機構をDFT計算により考察し、ホウ素カチオンとπ電子系との緊密な相互作用を利用した新奇炭素骨格構築反応の開発の新たな足がかりとなる知見を得ることに成功した。また、ボロセニウムイオンへのヒドリド付加反応とその後の加熱による骨格転位反応では、分子内において高活性なホウ素化学種の生成が考えられる結果を得た。室温下では、3配位ボランに対してシクロペンタジエニル基が置換している状態で結合している一方、加熱によってシクロペンタジエンが脱離し、ボリレンのような化学種が過渡的に生成している可能性が示された。このような特異な反応性は新たなホウ素化の手段としても活用できる可能性があり、ホウ素が媒介する新奇な反応性の開拓という観点から興味深い知見を得ることができた。当初想定していたところよりもさらに深い知見が得られているため、計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、昨年度の検討で得られた知見を活かした新奇なホウ素の反応性の開拓及び、求核的に振る舞うホウ素化学種を利用した新奇反応の開発に取り組む。シクロペンタジエニル基が中性ボランと2本の結合を有している構造は、加熱によりシクロペンタジエンとフリーなボリレンに解離する可能性が示されている。そこで、ペンタメチルシクロペンタジエニル基が結合した3配位ボランを合成し、これを加熱することでボリレンが生成するかどうかを検討する。ハロゲン化アリールのような芳香族求核置換反応を受ける基質を用いれば、ボリレンが求核的に作用することで、ボリル化反応が進行することが想定される。このような反応性が実現すれば、アルカリ金属を用いない温和な条件下でボリレン等価体を生成することができ、含ホウ素π電子系化合物などの新たな合成手段として確立できる可能性が期待できる。現時点では6段階にてシクロペンタジエニル基が結合した3配位ボランを合成する方法を計画しており、これに対する種々の試薬の反応性を模索していく予定である。また、DFT計算を用いた詳細な機構の解析も行う。このような求核的に振る舞うホウ素はその不安定性から合成手法が限られており、汎用性の高い手法は少ない。本研究では、この目的に従い、さらに新たな求核的ホウ素化試薬の開発に着手する。ボライドはホウ素とそれより電気陰性度の低い元素から構成される化合物群を指し、ホウ素は求核的に振る舞うことが考えられる。しかしながらこれまでボライドを有機合成における求核的ホウ素化試薬として使用する検討はなく、その試薬としての振る舞いに興味が持たれる。本研究ではFeBや、CaB6といった化合物を利用し、新たなホウ素源としての活用も模索していく予定である。
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