2021 Fiscal Year Annual Research Report
概念の規範的研究のための意味論的・語用論的基盤構築
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21J00061
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
松井 隆明 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 推論主義的意味論 / 概念の改訂 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は主に次の3つの課題に取り組んだ。 (1) 言葉の意味や概念の改訂に関するウィルフリッド・セラーズの理論の再構成・検討:ある概念が別の概念に取って代わられるという「概念置換」と、ある概念が同一性を保持したまま変化するという「概念変化」をどのように区別するのかという問題(トピック連続性の問題)に対して、セラーズが推論主義的意味論の立場から回答を与えていること、セラーズの回答からはトピック連続性は経路依存的であることが帰結することなどを、オンラインワークショップ Conceptual Engineering and Pragmatism にて発表した。また、言葉の意味や概念の改訂に関するセラーズの理論を、彼の同時代人のルドルフ・カルナップとウィラード・クワインの理論と比較検討した成果を論文としてまとめ、国際誌に投稿した。 (2) 概念の批判的研究においてしばしば用いられる「概念は機能をもつ」という考えの妥当性の検討:Cappelen, Fixing Language (2018); Haslanger “How Not to Change the Subject” (2010); Thomasson, “Conceptual Engineering?” (2021)などの先行研究の検討を行った。この成果は (1) の成果と合わせて論文化する予定である。 (3) 言葉の意味や概念に関するある種の不正義が存在するという考えの検討:言葉の意味や概念に関するある種の不正義が存在し、そうした不正義について考察する際に言語哲学における意味論とメタ意味論の区別が有益であるという考えを、哲学方法論における欠陥の概念をめぐる議論や、認識論における認識的不正義をめぐる議論と比較しつつ検討した。この成果は、応用哲学会第十三回年次研究大会などにおいて発表した後、論文としてまとめ国際誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度に投稿した論文はいずれもまだ掲載決定には至っていないものの、研究成果の発表は国内外の学会・研究会においても行ってきた。また、2022年度に取り組む予定の課題(推論主義的意味論において経験的探究が果たしうる役割を明確化する)の準備作業として、社会構築主義関連の先行研究の調査にすでに着手するなど、当初の計画以上に進展している部分もある。総合的に判断すると、現在の進捗状況はおおむね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、米国のピッツバーグ大学に滞在し、推論主義的意味論の研究の第一人者であるロバート・ブランダム教授のもとで研究を行う。2021年度に引き続き、(1) 言葉の意味や概念の改訂に関するウィルフリッド・セラーズの理論を検討するとともに、 (2) 言葉の意味や概念に関する不正義について考察するための一般的な枠組みの考案・洗練化に取り組む。また、新たな課題として、(3) 推論主義的意味論において経験的探究が果たしうる役割を明確化することを通じて、概念の規範的研究における経験的探究の役割を明確化することを試みるとともに、(4) ピッツバーグ大学科学哲学アーカイブに保管されているセラーズやルドルフ・カルナップの遺稿の調査を行う。さらに、(5) 概念の規範的研究のケーススタディとして、自由意志概念の改訂をめぐる議論を主に方法論的な観点から批判的に検討するワークショップを開催する予定である。
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