2022 Fiscal Year Annual Research Report
真菌類の起源-最基部系統群アフェリダ、クリプト菌の比較ゲノム解析からのアプローチ
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21J01228
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
瀬戸 健介 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 真菌類 / 寄生菌 / 進化 / 系統 / ゲノム解析 / ファイロゲノミクス / 比較ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、真菌類の最基部系統群であるアフェリダ門、クリプト菌門のゲノム・発現解析により、真菌類の起源および初期進化を解明することを目的としている。本年度は、以下の3つの成果を得た。 (1)緑藻寄生性菌類アフェリダ類KS114株およびKS120株の全ゲノム解析:初めにミトコンドリアゲノムの構築を行った結果、一般的なミトコンドリア関連遺伝子が全てコードされた環状ゲノムが得られた一方、両種ともに部分的あるいは全体的な反復を含むことが分かった。核ゲノムについては、KS114株はコンティグ数36、総塩基対17.3 Mb、N50 540 kb、KS120株はコンティグ数28、総塩基対15.1 Mb、N50 595 kbの良好なゲノムアッセンブルを得た。 (2)シングルセルゲノムシーケンスデータの解析:前年度に得たデータについて、メタゲノムビニングによるバクテリア等のコンタミネーションの除去を試みた。その結果5種のアフェリダ類のゲノムデータを新規に取得することができた。 (3)ファイロゲノミクス解析および比較ゲノム解析:上記で新規ゲノムデータを得たアフェリダ類を主な対象として解析を行った。ファイロゲノミクス解析では、合計11種のアフェリダ類および真菌類の主要な系統群について、解像度の高い系統樹を得た。特に、これまでの単一遺伝子領域の配列に基づく系統解析では十分に解明できなかったアフェリダ門内の系統関係を詳細に明らかにすることができた。比較ゲノム解析では、鞭毛関連遺伝子の探索およびオルソグループ解析を行った。アフェリダ類では、鞭毛を有す種であっても、ツボカビ類や動物等と比較して鞭毛関連遺伝子が退化傾向にあることが示唆された。オルソグループ解析では、アフェリダ門内で種あるいはクレード特異的なオルソグループが多数検出され、系統ごとに独自のゲノム進化が起こっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は以下の3つを目標とし、いずれも概ね達成できたと判断した。 (1)緑藻寄生性菌類アフェリダ類の全ゲノム解析:ここでは2株の解析を進めたが、一方は宿主藻類のゲノムが取得されていないため、寄生菌のみの抽出DNAの取得方法が課題であった。想定より時間を要したが寄生菌細胞の分離に成功し十分な量のDNAを得た。ゲノムアッセンブルでは、ゲノムサイズや倍数性をもとに解析条件の検討を行ったことで、ミトコンドリアゲノム、核ゲノムともに想定よりも良好なアッセンブルを得ることに成功した。 (2)シングルセルゲノムシーケンスデータの解析:アフェリダ門菌12細胞、クリプト菌門菌12細胞のシングルセルゲノムアッセンブルについて、メタゲノムビニングによるバクテリア等のコンタミネーションの除去を行った。特にアフェリダ門菌については、7細胞で良好なゲノムアッセンブルが得られ、5種のゲノムデータを新規に取得することができた。一方、クリプト菌門菌については、対象菌のゲノムアッセンブルの抽出には成功したが、多くが断片的なアッセンブルとなった。 (3)ファイロゲノミクス解析および比較ゲノム解析:ここではアフェリダ類を中心に解析を進めた。先行研究のゲノム、トランスクリプトームデータに、(1)、(2)で新規ゲノムデータを加えることで計11種のアフェリダ類の比較解析が可能となった。ファイロゲノミクス解析で解像度の高い系統樹を得ることに成功し、これまでの単一遺伝子領域(18S rDNA)のみの解析では不明瞭であったアフェリダ門内の系統関係を明らかにすることができた。また、比較ゲノム解析では、本研究によりタクソンサンプリングが充実したことで、アフェリダ門内でのゲノム進化の全体的な傾向を示唆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度の新規ゲノム解析データの結果に基づき、当初の計画を修正し主にアフェリダ門を対象とした比較ゲノム解析を進める。また、国外グループより出版されたアフェリダ門菌のゲノム解析の結果を受け、本研究では真菌類の全体の進化だけでなく、アフェリダ門内の進化にも着目して解析を行う。 まずは、本年度に行った比較ゲノム解析を引き続き進める。アフェリダ門全体で鞭毛関連遺伝子の欠失の傾向が見られたが、これをより広範囲の真核生物と比較し独自性と共通性を検討する。真菌類全体の進化の観点からは、代謝関連遺伝子、アメーバ運動関連遺伝子、菌糸関連遺伝子、細胞分裂関連遺伝子に着目し、特に動物および派生的な真菌類との比較を行う。また、アフェリダ門内では、宿主(緑藻、黄緑色藻、珪藻)の違いによる分泌酵素のレパートリーの比較、鞭毛欠失の過程の解明などを目指す。 また、当初の計画で行う予定であった比較発現解析については、緑藻寄生性アフェリダ類Aphelidium parallelum KS114株を対象として行う。ここでは、アフェリダ類が真菌類様の性質(細胞壁の合成および宿主への侵入)、動物様の性質(ファゴサイトーシスによる宿主細胞質の捕食)を生育ステージによって切り替えていることに着目し、その遺伝的基盤を探索する。1)遊走子、2)宿主藻類への付着、3)宿主藻類への侵入、4)宿主細胞質の捕食の4ステージの発現解析を行い、それらを比較することで遺伝子発現の切り替えの詳細を明らかにすることを目指す。以上の比較ゲノム、比較発現解析について、年度内の論文投稿を目指す。
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Research Products
(2 results)