2021 Fiscal Year Annual Research Report
関数空間およびBanach加群における保存問題の研究
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21J21512
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
榎並 優太 新潟大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 保存問題 / Preserver problem / 等距離写像 / Tingley問題 / 値域を保存する写像 / 関数空間 / JB*環 |
Outline of Annual Research Achievements |
単位的C*-環のユニタリー元全体の空間を単に距離空間として考えたとき,2014年にO. Hatoriにより,その主連結成分の間の全射等距離写像の構造が決定された.報告者は,上の結果をC*-環の非結合的なアナロジーである単位的JB*-環に一般化する研究に携わり,その結果はM. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura および A.M. Peraltaとの共著として出版されている. 正則関数のなす関数空間における等距離写像の研究として,2018年および2020年にT. Miura and N. Niwaにより,単位円板上の正則関数でその微分が円板環に属するようなもの全体のなす関数空間が考えられ,その上のいくつかのノルムに対する線型性を仮定しない全射等距離写像の一般形が記述された.報告者は,T. Miuraとの共同研究によって,この関数空間が連続微分可能な境界値をもつ正則関数の全体と一致することを見出した.この関数空間の一般化として,n回連続微分可能な境界値をもつ正則関数のなす関数空間を考え,和ノルムに対する線型性を仮定しない全射等距離写像の一般形を記述することができた.この結果は,RIMS Kokyuroku Bessatsuに投稿中である. 2021年にO. Hatori, S. Oi and R. Shindo Togashiにより,関数環に対してTingley問題が肯定的であること,すなわち,関数環の単位球面の間の全射等距離写像が関数環全体の間の全射実線型等距離写像に拡張されることが示された.この結果は,M. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura and A.M. Peraltaによって,局所コンパクトHausdorff空間上の一様閉関数環に対して一般化された.報告者は,この結果から積の構造をもつという仮定を外し,局所コンパクトHausdorff空間X上のスカラー値連続関数のなすBanach空間のextremely C-regularという性質を持つ部分空間にまで一般化した.この結果は,2021年度関数環研究集会において口頭発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,Banach加群や関数空間の構造を保存問題を通して調べるものであった.等距離写像の研究においては,T. Miuraとの共同研究で,正則関数でその境界値がn階連続導関数をもつもの全体のBanach環の等距離写像を決定した.また,連続関数全体のなすBanach空間のextremely C-regular subspaceに対するTingley問題を肯定的に解決した.さらに,M. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura and A.M. Peraltaとの共同研究に携わり,JB*環のユニタリー元の集合の主成分の間の全射等距離写像の構造を決定している. 一方で,C^1関数全体,Hardy空間およびFock空間など,Tingley問題が解かれていない関数空間も未だ多く残っており,これらの関数空間に対する結論は得られていない. スペクトル保存問題に関してはほとんど進捗を得られていない.関連する問題の値域を保存する写像については,ベクトル値正則関数の空間に対していくつかの知見を得ており,これを基に研究を行いたい.
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Strategy for Future Research Activity |
等距離写像の研究においては,Tingley問題の研究の発展が近年凄まじい.一方で,C^1-関数全体の空間やLipschitz関数の空間などといった,連続関数にある種のセミノルムの情報を加えたような空間については未解決の部分が多い.また,Hardy空間やFock空間をはじめとする正則関数のなすBanach空間に対しては,Tingley問題が未解決であるのみならず,全射実線型等距離写像の構造すらも決定されていない.C^1-関数の空間については,K. Kawamura, H. Koshimizu and T. Miuraによって,複数のノルムを一斉に扱う枠組みが得られており,この枠組みに対するTingley問題の解決を目指したい.また,Hardy空間などの正則関数のなす空間では全射複素線型等距離写像は決定されており,これらの証明のアイデアを今一度精査し,全射実線型等距離写像の構造の決定につなげたい. 値域を保存する写像については,局所凸空間に値をとる正則関数の空間など対して研究を行いたい.局所凸空間に値をとる関数の空間には,スカラー値の場合の性質をある程度引き継ぐと予想される.そのような現象の解明には,スカラー値関数の空間と局所凸空間の代数的テンソル積による近似が問題となる.古典的な近似問題やテンソル積の構造を調査し,値域を保存する写像の研究を推進したい.
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Research Products
(4 results)