2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J01546
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
須藤 輝彦 新潟大学, 現代社会文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 演劇 / アダプテーション / 翻訳研究 / ミラン・クンデラ / チェコ文学 / 啓蒙思想 / ヨーロッパ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にミラン・クンデラ研究とヨーロッパ演劇研究に時間を費やした。 ミラン・クンデラは本研究「共産党体制下のチェコ演劇における西欧古典の再受容」のなかでも根幹的な位置を占める作家である。クンデラは筆者の修士課程以来の研究対象でもあり、クンデラ研究会への参加とともに、日本フランス語フランス文学会関東支部および日本スラヴ学研究会へ投稿した論文、東京大学現代文芸論研究室で行った発表、また日本ロシア文学会で行ったワークショップを通して、本研究を支える貴重な洞察を得た。日本スラヴ学研究会へ投稿した論文「歴史の終わり、運命の終わり」はクンデラの『冗談』を主たる分析対象しており、1967年に発表されたこの小説は、本研究が扱う1960年代の比較的自由な雰囲気のなかで、厳しい抑圧があった50年代を懐古的に、かつ批判的に描くものである。広義の「スターリン批判」の流れのうちに位置づけられるこのような変化はクンデラのみならず本研究が扱うパヴェル・コホウト、ヴァーツラフ・ハヴェル、イヴァン・クリーマらの60-70年代の創作活動の背景として非常に重要である。 本年度後半には受入研究者の逸見龍生教授が受け持つ講義に参加した。これは古典ギリシャ・ローマ悲劇・喜劇作品から近世の古典劇作家を経て現代演劇作品までを網羅し、西洋演劇における古典の文化的転移と受容のパターンに焦点を当てたものだった。この講義では不条理演劇も扱われたのだが、筆者は目下クンデラの初期戯曲を不条理演劇との関わりで論じる英語論文を執筆中である。不条理演劇自体は「西欧古典」とは言えないが、「共産党体制下のチェコ演劇」を知るうえでは不可欠の観点であり、本研究の新しさを際立たせる要素となるものである。クンデラ以外のチェコ演劇研究については、2023年度のチェコ滞在中に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、2022年度の後半はチェコ共和国にて在外研究を実施する予定だった。だが新型コロナの世界的流行とロシアによるウクライナ侵攻のために、渡航が困難となった。結果的に2022年度は通年日本に留まることとなり、それ自体は計画から見ればもちろん大きな変更である。しかし日本での研究活動は結果的として、非常に豊かなものとなった。ロシア文学会でのワークショプは日本の若手研究者と行った領域横断的な性格のもので、研究の視野を広げる刺激となった。また逸見龍生教授が受け持つ講義に参加できたもの、日本にいたお陰ということになる。古典ギリシャ・ローマ悲劇・喜劇作品から現代演劇作品までを網羅するこのような講義を、豊かな演劇史を持つフランス文学の専門家から受けられたのはまたとない行幸だったと言える。「古典の記憶が社会的変容を越えてどのように連続し、再解釈されるか。」講義の通奏低音だったこの問いは無論、本研究の基本的関心でもある。逸見教授との関わりで言えば、教授を中心とした啓蒙関連の訳読会にも出席しており、チェコにおける「啓蒙の遅れ」をサブテーマとする本研究を深めていくうえで有益であることは言うまでもない。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年の8月から1年半ほど、チェコを拠点とした在外研究に従事する予定である。上述の通り、申請時の研究計画からすれば遅れがあるため、計画を圧縮したかたちで研究を進めていく必要がある。 チェコにおいては演劇および文学・思想関係の書籍を入手し、直接の分析対象である戯曲が上演される際には可能な限り映像メディアに記録しながら、チェコ国立図書館およびプラハ国立博物館にて原作と翻案双方のチェコにおける受容を調査する。チェコ以外のヨーロッパ諸国での資料収集については、2023年度はおもにイギリスとフランスへ赴いて行う。ロンドンではイギリス国立演劇博物でジョン・ゲイを中心としたイギリス演劇関連資料を複写し、オックスフォード・カフカ研究所にてカフカ関係の資料を集める。またパリにも1ヶ月ほど滞在し、フランス国立図書館にてクンデラが翻案したディドロ、コホウトが翻案したヴェルヌおよびモリエールの受容を調査し、同時にフランス演劇一般についての文献、研究の重要テーマである啓蒙思想についての文献も入手する。 ドイツおよびオーストリアでの資料収集は2024年度に行うこととする。
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