2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J10300
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小泉 隼人 富山大学, 生命融合科学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 体内時計 / 時計遺伝子 / カルシウムイメージング / 発光イメージング / 昼行性行動 / ナイルグラスラット / 培養細胞 / 末梢時計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昼行性げっ歯類であるナイルグラスラットを実験材料として、神経伝達の解析および培養細胞を用いた研究を行った。体内時計中枢である視床下部視交叉上核(SCN)およびその投射先領域におけるGABA応答性を蛍光Ca2+イメージングを用いて解析した。その結果、SCNの主要な投射先脳領域である室傍核下部領域(SPZ)において、ナイルグラスラット・夜行性マウス間の顕著な種差が観察された(生物リズムに関する札幌シンポジウム2022 ポスター発表)。また、照明強度がナイルグラスラットの睡眠覚醒リズムに及ぼす影響を解析し、低照度環境下において明期覚醒量が低下することを明らかにした(第29回日本時間生物学会学術大会 ポスター発表)。このような個体・組織レベルでの解析と並行して、ナイルグラスラットに由来する培養細胞を用いた研究を開始した。具体的にはナイルグラスラット肺線維芽細胞に由来し、時計遺伝子発光レポーターを安定発現する細胞株の樹立に成功した。さらに、本細胞株を用いて体内時計の分子振動調節に関わる生理活性物質の探索を行い、ドーパミンが体内時計調節作用を持つことを明らかにした。以上のナイルグラスラットを用いた研究により、昼・夜行性を制御する機構の解明に向けて一定の成果が得られた。加えて、ミトコンドリア内膜に発現するイオントランスポーターが細胞内イオン濃度リズムや時計遺伝子発現リズムの概日振動に重要であることを明らかにし、論文投稿を行った(Morioka et al., Cell Reports 2022)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
線維芽細胞は単離条件下において時計遺伝子の明瞭な発現リズムを示すことから、体内時計研究において古くから細胞モデルとして使用されてきた。そこで、本研究ではナイルグラスラットの肺線維芽細胞を単離し、継代培養を繰り返すことで株化細胞を得た。並行して、ナイルグラスラットのゲノムDNAから時計遺伝子Bmal1のプロモーター領域を増幅し、これをルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込むことで、時計遺伝子発光レポーターを作成した。これを線維芽細胞に導入し、抗生物質によるセレクションおよびシングルセルクローニングを経て、ナイルグラスラット由来の細胞株を確立した。この細胞株は時計遺伝子Bmal1の発現量の変化を発光量の変動として観察することが可能であり、時計遺伝子の発現リズム調節機構を解析することが出来る。本研究では、さらに作成した細胞株に蛍光Ca2+指示薬Fura2-AMを負荷することで、Ca2+イメージングを用いた生理活性物質のスクリーニングを行った。その結果、セロトニン、およびドーパミン刺激により、明瞭な細胞内Ca2+濃度上昇が観察された。さらに、時計遺伝子発現リズムに対するこれらの作用を検討した結果、ドーパミンのみが時計遺伝子発現リズムの位相調節作用を持つことを明らかにした。これらの知見は中枢時計が自律神経や液性因子を介して末梢時計を調節する機構の解明に役立つものと期待される。また、ナイルグラスラットに由来する細胞株はこれまでに報告例がなく、本研究が初となるため、遺伝子ベクターの確認や生理活性物質の作用解析など広範な実験に有用であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、ドーパミンが時計遺伝子発現リズムを調節する作用を持つことが観察されたので、この作用を媒介する受容体サブタイプの決定や細胞内シグナリングの解析を行う。興味深いことに、ドーパミン受容体アンタゴニスト処理はドーパミンの時計遺伝子発現調節作用に対してほとんど影響しなかったことから、ドーパミンはドーパミン受容体以外の受容体を介して時計遺伝子発現を調節すると推察される。ドーパミンはアドレナリンやノルアドレナリンと構造が類似しており、ドーパミンがアドレナリン受容体に作用し得ることが報告されていることから、アドレナリン受容体の関与を解析する。加えて、先行研究によりCREBなどの転写因子が時計遺伝子の発現調節に関わることが知られていることから、これら転写因子のリン酸化レベルを解析し、ドーパミン刺激によって活性化する転写因子を明らかにする。また、セロトニン刺激により細胞内Ca2+濃度の上昇が観察されたにもかかわらず時計遺伝子の発現は変化しなかったことから、Ca2+濃度の上昇は時計遺伝子発現調節に必須ではないことが示唆された。ドーパミン刺激はCa2+/cAMP経路を活性化すると考えられるので、時計遺伝子の転写リズム制御にとってCa2+とcAMPシグナリングが等価でないことが推察される。今後は細胞内シグナリングを詳細に検討することで時計遺伝子発現調節に関わる因子の特定を行う。また、夜行性動物由来の細胞株を用いた比較解析により本研究で観察された現象の種を超えた普遍性を解析する予定である。
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