2021 Fiscal Year Annual Research Report
植物二次代謝の高効率な生合成の鍵となるメタボロンの構造解析と膜上動態イメージング
Project/Area Number |
21J22186
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
今泉 璃城 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 植物二次代謝 / フラボノイド / イソプレノイド / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,植物のイソフラボン及び天然ゴム生合成において、進化の過程でつくりだした酵素複合体がダイナミックに動く姿と,分子レベルでの詳細な構造を捉え、高効率な生合成の謎を解明することを目的としている.本年度は,分子レベルでの詳細な構造を捉えるため,発現・精製・結晶化条件の最適化を行った.イソフラボンを含むフラボノイド生合成の初発段階を担い,酵素複合体(メタボロン)の構成因子の一つであるダイズ由来カルコン合成酵素(CHS)の反応特異性低下の原因であると考えられる補因子A(CoA)との複合体構造を原子分解能で決定した.この構造からCoA結合サイトを決定し,CoAによるCHSに対する反応阻害様式を明らかにした.この知見を代謝工学的に応用できれば,様々な生理活性を有するフラボノイド類の高効率な発酵生産系構築につなげられる可能性がある.さらに,天然ゴム生合成酵素類似酵素であるトマト由来ネリル二リン酸合成酵素(NDPS1)の結晶構造を1.9Å分解能で決定した.さらに,NDPS1を一部改変することにより酵素活性の上昇ならびに生成物特性の変換が可能であることを示した.本成果は,査読付き国際学術雑誌であるThe FEBS Journalにアクセプトされ,オンライン公開された.この知見は,超長鎖のポリマー分子である天然ゴムの生合成機構解明へ向けた重要な知見であるのみならず,酵素改変により創出した非天然型の全シス型イソプレンポリマーをテルペンサイクラーゼ等により修飾することで非天然型新規化合物を生み出すことができる可能性がある.現在,決定した結晶化条件を元にNDPS1と生成物アナログとの複合体構造を決定するため,再度条件の最適化及びX線回折実験を進めている.また,高速バイオAFMによる動的な構造解析についても,採用時の年度計画を元に条件検討を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,結晶構造解析をメインに研究を遂行した.その結果,ダイズイソフラボン生合成の初発段階に位置するカルコン合成酵素とその酵素活性を阻害する補酵素A(CoA)との複合体構造決定に成功した.精密化も既に完了しており,現在投稿論文を執筆中である.また,天然ゴム生合成酵素も属するシス型プレニルトランスフェラーゼ(cPT)の一種であるトマト由来ネリル二リン酸合成酵素(NDPS1)の構造決定にも成功した.ネリル二リン酸合成酵素の構造解析は報告されておらず,本構造が初めての例となる.さらに,決定した結晶構造において,一部の植物由来cPTに特有なN末端付加領域(NTE)の明確な電子密度を初めて観察でき,残基をモデル化することに成功した.このNTE構造から,全く未知のジスルフィド結合の形成が構造的に示唆されたことから,当該システイン残基に対し部位特異的変異導入を行うことでジスルフィド結合の形成を阻害すると,酵素活性に対する影響が示唆されたため,現在,再現性確認及び,より詳細な機能解析を進めている.さらに,架橋剤試薬や高速バイオAFMを用いたメタボロン構造の静的・動的構造解析の条件最適化も当初計画通り進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策としては,まず,今年度と同様に結晶構造解析を継続し,各メタボロン構成因子の分子レベルの詳細な構造を明らかにする.昨年度,構造決定に成功したネリル二リン酸合成酵素(NDPS1)の構造中に確認された未知のジスルフィド結合の機能的役割を明らかにするため,昨年度部位特異的変異導入により得た変異体を用い,今年度より詳細な機能解析を進める.さらに,生成物アナログとの複合体構造を得るため,各種条件検討を進める.ダイズイソフラボノイドメタボロンの構成因子について,複合体単離条件の最適化を進めており,一部について単離が可能であると考えられる.また,従来より生物種の違いにより各メタボロン構成因子間の結合強度が異なるという現象が見られていたが,構造的な知見は全く明らかになっていなかった.そこで今年度は,前年度にDry解析用に購入したPCを活用し,AlphaFold2による構造予測も組み合わせることで,メタボロンの実像に迫りたいと考えている.すでに環境構築は完了しており,AlphaFold2を用いた予備的な計算を行った結果,非常に興味深いモデリング結果が得られた.現在,各種アッセイを進めており,新規X線結晶構造と合わせ論文を準備中である.さらに,本質的に動的だと考えられているメタボロンの構造的揺らぎを捉えるため,高速バイオAFMによる動的構造解析も並行して進める予定であり,現在,観察条件や精製条件の検討を進めている.
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Research Products
(4 results)