2022 Fiscal Year Annual Research Report
Naive型ウサギ多能性幹細胞の樹立と胚盤胞補完法による膵臓再生への利用
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21J21849
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岩月(中山) 研祐 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 多能性幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は昨年度に引き続き、当初予定していた研究課題を転換及び発展させ、ラットを用いて多能性幹細胞における普遍的な未分化維持機構の解明、及び各発生段階を反映した新規幹細胞の樹立に取り組んだ。特に、着床後のエピブラストの多能性を反映した Primed 型のエピブラスト幹細胞は、これまで分化した細胞が混在した不均一な状態での培養が一般的であり、樹立や維持は非効率であった。そこでまず、ラットエピブラスト幹細胞 (rEpiSC) を安定に樹立・維持可能な培養条件を検討したところ、Rho/ROCK シグナルの恒常的な阻害と WNT シグナルの強力な阻害により、分化細胞の出現を抑えて均一な未分化性を示す rEpiSC の樹立に成功し、rEpiSC を安定に樹立・維持できる新規の培養系として確立した。そこで次に、この培養系を用いて培養された rEpiSC がどの発生段階を反映しているのかを評価した。その結果、rEpiSC を着床前の胚盤胞に移植して発生を進めても移植した細胞は生着せず、胎仔のキメラ形成は確認できなかったが、免疫不全マウスの精巣に移植すると、外胚葉・中胚葉・内胚葉のそれぞれに特徴的な組織構造を持つテラトーマの形成が確認できた。さらに、rEpiSC から胚葉体を形成させ BMP で刺激すると、始原生殖細胞様細胞を分化誘導でき、誘導された始原生殖細胞様細胞を生殖細胞を欠損するラット新生仔精巣に移植すると精子形成可能で、得られた精子細胞はラット未受精卵への顕微授精により産仔作出が可能であることが明らかとなった。このように、新規の培養系で維持された rEpiSC は三胚葉への分化誘導だけでなく生殖細胞への分化誘導も可能であったことから、三胚葉及び生殖細胞への運命決定が始まる原腸陥入前の発生段階を反映していることが示唆された (岩月ら、第45回日本分子生物学会、2022年)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた研究計画は、ウサギの実験・管理施設への出入り制限などから大幅に計画を変更せざるを得なかったが、ラットを用いた多能性幹細胞の未分化性維持機構の解明は順調に進んでおり、既にその研究内容を論文にまとめて投稿済みであり、現在査読者の要求に対する対応、再投稿を済ませて返答を待っているところである。また、昨年度から引き続き進めている Naive 型多能性幹細胞におけるエピゲノム異常の原因究明では、エピゲノム異常の有無を可視的に判定できるレポーター株の作製・樹立に至っており、そのエピブラスト幹細胞株を利用してエピゲノム異常を回避できる培養条件の確立を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では、ラットエピブラスト幹細胞の培養法の確立及びその特性解析によりラットエピブラスト幹細胞が始原生殖細胞へと直接的に分化誘導可能であることが明らかとなったが、この特徴はマウスモデルとは異なっているが、ウサギモデルでは同様の結果が得られている。今後は、マウスやウサギの多能性幹細胞を用いた培養維持の検討と始原生殖細胞様細胞への分化誘導を同時に進めることで、種間で保存された未分化維持及び発生・分化の分子メカニズム解明を進める。具体的には、ラットエピブラスト幹細胞の培養法と始原生殖細胞様細胞への誘導法の改良を進めることでより安定かつ効率的に始原生殖細胞様細胞へ誘導可能な条件を明らかにし、生殖細胞への運命決定に重要な分子メカニズムを解明する。Naive 型多能性幹細胞のエピゲノム異常を回避可能な培養条件の検討については、レポーター株を利用してエピゲノム正常性の維持に有効な化合物を迅速にスクリーニングし、分子生物学的解析及び胚盤胞への移植による機能的な評価により、確立した培養法で維持された多能性幹細胞のエピゲノム正常性を証明することを目指す。
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