2022 Fiscal Year Annual Research Report
通信機の超低消費電力化に向けた窒化ガリウム系高周波トランジスタの開発
Project/Area Number |
21J22909
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
隈部 岳瑠 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 窒化ガリウム / ヘテロ接合バイポーラトランジスタ / 分極ドーピング / 結晶成長 / 半導体製造手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、次世代通信用半導体素子として期待されている窒化アルミニウムガリウム・窒化ガリウム・ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(AlGaN/GaN HBT)の高周波動作実証を目指し、デバイス構造検討と要素技術開発を行う。 本年度はAlGaN/GaN HBTの高周波動作実証のカギとなる、ベース領域の低抵抗化に焦点を絞り、新規デバイス構造の検討と要素技術の開発を行った。具体的には、「分布型分極ドーピング(DPD)」のAlGaN/GaN HBT応用を目指し、DPD層の基礎物性評価を行った。 まず、DPDの実現に不可欠な「傾斜組成AlGaN」の作製に向けて、成長パラメータの検討を行った。成長時の原料供給比や圧力などを調整した結果、積層方向にAlNモル分率が線形に変化する傾斜組成AlGaN層の作製・制御に成功した。 次に、デバイス応用に向けて、DPDのみで作製したp-n接合の電気的特性を調査した。容量-電圧特性から、DPDは従来Mgドーピングに比べて精密な空間電荷密度分布制御が可能であることを見出した。また、拡散・再結合電流モデルで説明可能な電流-電圧特性やアバランシェ降伏など、教科書的なp-n接合の諸特性も初めて観測した。以上から、DPDのみで電子デバイスを作製可能であることを実証した。 最後に、DPDを活用したAlGaN/GaN HBTの性能予測に向けて、p型DPD層中の正孔移動度と電子寿命調査した。正孔移動度の温度特性からp型DPD層中における正孔の散乱機構を明らかにし、任意の組成・温度帯における移動度の予測モデルを作成した。また、p型DPD層を用いたダイオードの電流電圧特性から、従来のMgドープGaNに比べ数倍長い電子寿命を実現可能であることを見出した。以上のように、従来のMgドーピングよりも優れた特性を有するp型層を実現できることを初めて明らかにし、そのモデル化に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ベース領域の低抵抗化に向けてMgドーピングに依らない窒化物半導体・p型電導性制御手法の開発に取り組み、傾斜組成AlGaNを用いた分布型分極ドーピング(DPD)の結晶成長条件やデバイス化プロセス条件を確立した。これをもとにp-n接合ダイオードを作製・評価した結果、当該年度の目標である「p型DPD層の電気的特性の解明」を達成した。特に、DPDが従来のMgドーピングと比較して低い電気抵抗と長い電子寿命を両立できることが明らかになり、AlGaN/GaN HBTの低導通損化と高電流増幅率化に一定の目途が立った。 これは最終年度の目標である「AlGaN/GaN HBTの高周波動作実証」に向けて、新奇技術基盤を確立できたと言える。このように、計画時の目標を達成でき、最終年度につながる成果が得られていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度はAlGaN/GaN HBTの高周波動作実証を目指し、コンピュータ・シミュレーションによるデバイス構造の最適化と実デバイスによる動作実証を目指す。具体的には、2022年度に構築したp型DPD層の基礎物性モデルをもとに、p型DPD層をベース領域に用いたAlGaN/GaN HBT構造のTCADシミュレーションを行う。ベース領域とエミッタ領域の最適化を通じ、遮断周波数10 GHz以上の特性を有するAlGaN/GaN HBT構造の実現を目指す。 また、2021年度に確立したMgドープAlGaN/GaN HBTのデバイス作製プロセスを基本とし、DPDを活用したAlGaN/GaN HBTの作製も行う。特に、2022年度に行ったTCADシミュレーションの予備検討から、従来のGa面上よりもN面上にデバイス構造を作製したほうが高性能なAlGaN/GaN HBTを実現できることが示唆された。しかし、N面GaNはGa面GaNに比べ、①結晶成長時に意図しない不純物が取り込まれやすい、②化学的に脆弱であり基板洗浄・リソグラフィ・エッチングに工夫が必要、など課題が多い。そこで、2023年度は2021年度に確立したデバイス作製プロセスを基本として、N面GaN上のデバイス作製プロセスを検討する。これらを通じ、TCADシミュレーションにより決定したAlGaN/GaN HBT構造をN面GaN基板上に実際に作製し、DPDを活用したバイポーラトランジスタにおける世界初の動作実証を目指す。また、研究が予想以上に進展した場合はデバイス作製プロセスの微細化を進め、遮断周波数5 GHz以上における高周波動作実証も目指す。
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