2023 Fiscal Year Research-status Report
Multiscale Simulation of Polymer Degradation: From Molecular Dynamics to Macroscopic Properties
Project/Area Number |
22KJ1543
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石田 崇人 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 劣化 / 酸化 / 分解 / シミュレーション / 反応 / ダイナミクス / 不均一 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究課題「高分子劣化のマルチスケールシミュレーション: 分子ダイナミクスから物性変化まで」に関して,当初の研究遂行計画に対して非常に順調に進展している.これまでに,マルチスケールシミュレーションの根幹を成すメソスケールダイナミクスを表現する粗視化分子動力学に関して,長時間ダイナミクスの計算に実績のある粗視化Kremer-Grestモデル上で高分子劣化を表現することができるよう拡張することに成功し,そのフレームワークを用いて,酸素飽和条件下で熱劣化を受ける樹脂材料の劣化シミュレーションを実施した. その結果,酸化劣化において活性なラジカル種が周囲の分子鎖を切断し,それがあたかも感染症が伝播するように拡散する様子が見て取れた.これはGossらが2000年代初頭に提唱した現象論的数理モデル(Goss et al., Polym. Degrad. Stab., 2001)の描像と極めて類似している.加えて,申請者の実施した非平衡劣化計算によれば,特徴的な反応時定数が分子鎖の緩和するタイムスケールより短い場合に劣化サイトが空間的に不均一に分布し,一方で,分子鎖の緩和時間が十分に短い系では劣化進行の空間不均一性は現れないことが明らかになった.総括すると,分子運動と劣化反応の時間スケールの関係が劣化後に立ち上がる不均一構造を決定づける重要な要因であることを静的構造因子や動径分布関数のような不均一構造の数量的指標を用いて確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究課題の提案当初に構想していた計画以上に進展ができている.当初は2年目までに粗視化分子シミュレーションを構築する予定でいたが,それは既に1年目に完了できており,2年度目はそのシミュレーションを用いた場合に引き出すことができる科学的知見に関する探索も十分に行うことができた.その上,本研究課題で得られた成果を高分子系論文誌のトップジャーナルであるMacromolecules誌に投稿することができた.既に関連論文の草稿も2報執筆完了しており,これらについても本研究課題最終年度中に投稿・掲載まで至ることができるものと思われる.最終年度に遂行予定の研究についてもシミュレーションコードの作成は既に完了しており,計算機を用いてデータ取得を進めている間に成果発表等の準備を進められる見込みである.
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は本研究課題の最終年度となる.これまでに構築したメソ領域における高分子劣化の粗視化分子シミュレーションとマクロスケールでの劣化を紐づけることによってマルチスケールでの高分子劣化現象を記述を実現する.マクロスケールでの劣化シミュレーションにおいては酸化反応において重要な役割を果たす酸素濃度プロファイルを表現する反応拡散方程式を解き,時々刻々と変化する局所酸素濃度をパラメータとしてメソ領域の粗視化分子シミュレーションを用いた劣化計算を実施する.局所酸素濃度をパラメータとして受け取ることができるようにシミュレーションの仕様変更は既に完了しており,2024年度も計画通りに研究を進展していける見込みである.具体的には,現在検討しているシミュレーション領域を多数連結した系を設計し,各シミュレーションボックスを連成させた大規模シミュレーションを行う.これを名古屋大学スーパーコンピュータ不老を用いて実施する.
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