2022 Fiscal Year Annual Research Report
一般確率論と状態識別性能を用いた大規模量子系の実現可能性の定量的評価
Project/Area Number |
22J14947
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
荒井 駿 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | 状態識別 / 大規模量子系 / 一般確率論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,仮想モデルの実現不可能性を論じる一般確率論の成果を現実の物理系に応用し,系の大規模化と関係の深い状態識別性能を用いて,与えられた量子系の実現可能性の定量的な指標を与える. その初期段階として,ある種の実験的検証によって区別がつかないほど通常の量子系と近いモデルである,量子系の近傍モデル間における状態識別の性能の差を解析した.結果として,状態識別性能は,量子系のいかなる近傍モデルにおいても差が生じることを明らかにした.この事実は,状態識別性能という物理系における指標が,物理系の実験的検証と同等の,物理系の差を評価する指標になると結論付けられた.本研究は今年度査読付き論文誌New Journal of Physicsに掲載され,また査読付き国際会議Beyond I.I.D.における口頭発表,査読付き国際会議QIPにおけるポスター発表を含め,合計4件の成果報告を行った.また,本成果を主結果として学位論文を執筆し,博士(数理学)の学位を取得した. また,上記の成果を現実の物理系に適用するには,量子近傍モデルにおける実験的検証をプロトコルのレベルで議論する必要が厳密にはある.そこで,量子近傍モデルにおける通常の量子系に留まらない非局所性の検証を議論し,現実の物理系で実現可能なプロトコルを与えた.本結果は現在arXivにプレプリントとして公開しており,日本物理学会での口頭発表にて成果報告をしている. 加えて,状態識別性能の現実の物理系における振る舞いを理解する目的で,状態識別の振る舞いと熱力学的性質を解析し,量子近傍モデルでのいくつかの顕著な例を与えた.この結果は査読付き論文誌Physical Review Researchに掲載され,合計2件の国際会議にて成果報告している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大規模量子系の実現可能性の指標を与えることを目的にする本研究において,状態識別性能の系を拡大したときの漸近挙動は重要な問題である.この漸近挙動の解析手法として,Steinの補題が重要である.特に量子近傍モデルについて適用する場合には,一般化されたSteinの補題の結果が重要であった.しかしながら,この結果の証明にギャップがあることが,M. Berta, et.al., arXiv:2205.02813 として今年指摘され,現在に至るまでそのギャップの修正は量子情報理論分野全体の重要な問題となっている. 本研究も一般化されたSteinの補題を適用することを前提としていたため,この数学的手法の制約により,想定よりも進捗状況が遅れている.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の従来の計画の遂行のためには,一般化されたSteinの補題の問題を解決する必要があるが,オリジナルの主張の証明のギャップを直接解消することは難しいと予想している. そこで,本研究の遂行においては十分一般性を失わず,一般化されたSteinの補題の証明を簡潔させるのには十分強力な,追加の仮定を提案し,その仮定のもとで一般化されたSteinの補題を証明することを試みる.この追加の仮定として,量子近傍モデルと相性の良いと考えられる状態の近傍領域を用いた仮定が候補として考えられる.具体的には,系を拡大の際に,拡大後の系には,元の系の状態の特定の近傍領域までが必ず含まれるという仮定である.前年度の研究成果の際に行った数学的手法から着想を得たものである.そこで本年度はまず,この仮定について議論し,この仮定の上で一般化されたSteinの補題の解決を試みる.その後,その結果を用いて量子系の実現可能性の定量的な指標を与えることを試みる.
|