2022 Fiscal Year Annual Research Report
無機2次元材料における原子層制御と新規電極触媒の創出
Project/Area Number |
22J20348
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
安藤 純也 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 貴金属 / パラジウム / ナノシート / 原子層触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、当初目標としていた研究実施計画の内、次の2点を達成した。1) パラジウム (Pd) ナノシートの合成と原子層制御。 2) 合成したPd ナノシートの電子状態評価。 1) のPdナノシートの合成および原子層制御については、有機物から発生する一酸化炭素 (CO) をパラジウム111面への吸着物としてシート形状に異方成長させる合成手法を新規に考案した。これは、先行研究にて報告されている気体のCOガスを用いる手法では安全性・再現性に問題があり、また金属カルボニルをCO源として用いる手法ではPdナノシート中にヘテロ金属原子が混入し正確な電子状態評価に向かないためである。また、有機物からのCO発生を利用する我々の手法では、そのCO放出速度をコントロールすることでPdナノシートの膜厚制御が可能であり、当初の研究目的であったPdナノシートの膜厚制御も達成する形となった。加えて、合成後のPdナノシートに対し、表面にPd原子層を塗り重ねる形での原子層制御手法の開発も行った。 2) の電子状態評価については、主にあいちシンクロトロン光センター (あいちSR) BL7Uにて深さ分解XPS測定を行った。実験室で利用可能なXPS測定では、深さ分解XPS測定を行うために検出角を変えた測定を行うことになる。しかし、二次電子の検出角はその飛び出し角度に左右されるため、厳密な深さ分解の議論が困難である。あいちSR、BL7Uでの実験により、厳密に深さ分解を行っての価電子帯の評価が可能となった。 また、当初予定していた電気化学評価については電気化学プローブ顕微鏡 (SECCM) による評価を実施した。しかし、ナノシート1枚に対してプローブをアプローチすることが困難であり、また表面の濡れ性などの議論点も生じることから詳細な分析は達成されておらず、触媒活性評価においては次年度に中心的な実施を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展している。 本年度の主な達成課題としては、まず当初達成目標としていたPdナノシートの合成およびその原子層制御は既に達成しており、また放射光を光源とする深さ分解XPS測定を実施しその電子状態の評価も終えている。加えて、詳細な解析は今後の課題ではあるが、XAFS測定を実施しており、今後試料のdバンドの電子状態の評価に役立てたいと考えている。 加えて、当初の目標よりもより進んだ研究成果として、Pdナノシートを他の金属と組み合わせたコアシェルナノシートの合成やその電子状態評価も終えている。また次年度以降の実施を予定していた、基板や他のナノシートとの接合界面が電子状態に与える影響についても、放射光を用いたXPS測定結果より徐々にわかりつつある。 一方、当初目標としていた中で未達成の課題としては、1) ケルビンプローブフォース顕微鏡 (KFM) を用いた表面電荷状態の評価、および 2) 電気化学特性評価の2つがあげられる。KFMを用いた表面電荷状態の評価では、Pdナノシートが加熱に弱く、表面吸着物の燃焼による除去が困難であることが課題となっていたが、溶液中にてPd表面に吸着した有機物を除去する方法を開発中であり、KFMによる表面電子状態評価を次年度実施できるものと考えている。また、触媒特性評価については、電気化学プローブ顕微鏡 (SECCM) による実験を行ったものの、探針のアプローチや試料の濡れ性などの問題があり詳細な分析が出来なかった。次年度は、まずバルクでのサイクリックボルタンメトリー (CV) やリニアスイープボルタンメトリー (LSV) などを実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずPdナノシートについて、1) 通常のサイクリックボルタンメトリー (CV)、リニアスイープボルタンメトリー (LSV) などの測定、 2) 原子間力顕微鏡 (AFM)、ケルビンプローブフォース顕微鏡 (KPFM)、電気化学-原子間力顕微鏡 (EC-AFM) などを用いた、ナノシート表面の構造、電子状態、触媒活性の詳細な分析、の2点を実施予定である。まずCVおよびLSV測定については、今年度電気化学プローブ顕微鏡 (SECCM) を用いたナノシート1枚での触媒活性測定が困難であったため、通常の電極を用いた測定によりその電気化学特性を考察する。続いて、ナノシートの特徴的な表面構造・表面電子状態・表面活性を結び付けた触媒特性評価を行うべく、AFM測定を中心とした詳細な評価を行っていく。特に、平面サイトとエッジサイトでの構造や電子状態の違い、および触媒活性に与える影響の評価を行う予定である。 またナノシートのコアシェル接合界面、ないしヘテロ接合界面での電子状態評価をより詳細に行うために、SPring-8、BL09XUでの深さ分解XPS測定の実施を予定している。BL09XUでは3次元空間分解HAXPES装置が搭載されており、プラスマイナス32度の光電子取り込み角度を実現している。これにより、ナノシートの電子状態をより詳細に深さ方向に分割した測定が可能となると期待している。 現状研究を遂行する上で大きな問題点があるとは考えていないが、ナノシートの厚みをより厳密に評価するためには、通常の大気環境下でのAFM測定ではなく真空環境下での吸着水の影響を排したAFM測定、もしくは逆に、液中AFMなどの工夫が必要となると考えている。加えて、AM-FM粘弾性マッピングによる表面吸着物の評価なども実施の必要があると考えている。
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