2021 Fiscal Year Annual Research Report
赤外分光を用いた酵素型ロドプシンの光反応ダイナミクス解明
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21J22970
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
杉浦 雅大 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ロドプシン / 酵素 / セカンドメッセンジャー / 赤外分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
酵素ロドプシンは、光を吸収できるロドプシンドメインと、酵素反応を担う酵素ドメインから構成される膜タンパク質であり、光でセカンドメッセンジャーを制御可能であるため、新たな光遺伝学への応用が期待されている。一方で、光を受け取るロドプシンドメインから空間的に離れた酵素ドメインがどのように活性化されているのか、という詳細な分子メカニズムの理解は不十分であった。そこで、高速な分子の動きをとらえることが可能かつ、サブÅオーダーの分子の動きをとらえることが可能な時間分解赤外分光法を用いて酵素ロドプシンの1つであるロドプシングアニル酸シクラーゼ(Rh-GC)の光誘起されたタンパク質の変化を測定した。すると、ロドプシンドメインと酵素ドメインをつなぐリンカーおよび酵素ドメイン由来と考えられる信号をとらえることに成功した。また、Rh-GCのこれまでの研究では発見されていなかった新たな光反応中間体と思われる信号をとらえることもできた。 微生物ロドプシンには多くの種類が存在し、それぞれのタンパク質は紫外光吸収型、可視吸収型、遠赤色光吸収型といったように広範な多様性がある。この波長制御を担うアミノ酸残基として、これまでに4つの位置のアミノ酸が同定されており、実際に自然界において波長を変えるために使用されている。そして、2020年に我々が報告した新規酵素ロドプシンの分子特性を評価した論文中において、新たに5つ目の波長制御残基が見いだされた。そこで、アミノ酸残基の変異体実験を行うことで、新たに見いだされた波長制御残基の詳細な波長制御メカニズムを明らかにした。 今後、これらの研究成果をまとめ、論文化を行う予定である。 また、大腸菌発現系を用いたタンパク質発現が困難であった新奇酵素ロドプシンを昆虫細胞発現系で発現させることに成功した。これにより、来年度、新規酵素ロドプシンに関する新たな知見を得られると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時間分解赤外分光法と呼ばれるアドバンスな分光法を用いて酵素ロドプシンファミリーの1つであるRh-GCの全長タンパク質試料と膜内ドメインのみの試料の測定を行い、両者の比較から酵素ドメイン由来の信号を抽出した。具体的には、光反応中に起こる酵素ドメインのα-へリックスやβ-シートの動きやアミノ酸のプロトン化状態の変化をとらえることができた。酵素ロドプシンは酵素反応を伴うため、極低温で中間体をとらえる低温赤外分光法ではその反応をとらえることは困難であるが、室温で測定可能な時間分解赤外分光法を用いることで、一般的なロドプシンには存在しない空間的に離れた酵素ドメインがどのように光活性化されるのか、という問いに答えることができるのではないかと考えていたが、今回予想通り酵素ロドプシンの光活性化機構の一端を明らかできたことは大きな進展である。 次に、光照射後、各中間体がいつ生成し減衰するのかという情報を得るために過渡吸収測定を行う予定であったが、試料量および安定性の問題から酵素ロドプシンの測定は困難であった。そこで、コントロール試料を用いて、従来よりも濃度が低い状態での測定条件の検討を行うことで、低濃度での測定が可能であることを確認できた。 また、2020年に我々が発見したロドプシンの吸収波長を制御している5つ目のアミノ酸残基に変異を加え、吸収波長を測定することで、その詳細なメカニズムを明らかにすることができた。この波長制御残基は酵素ロドプシン、ひいては微生物ロドプシン全体に応用可能な知見であるため、今後の光遺伝学への応用、発展に期待が持てる。 以上の点から、当初の目的であった酵素ロドプシンのダイナミクスをとらえることができたとともに、酵素ロドプシンから新たに発見された波長制御残基の変異体測定によってその分子メカニズムを明らかにできたため、大いに順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
もともとの計画としては、2019年に発見され、2020年に我々が分子特性を明らかにした、8種の新規Rh-PDE(Sugiura et al. ACS Omega, 2020)に対して時間分解赤外分光法を適用し、前年度と同様に酵素ドメイン由来の信号を得る予定であった。一方、2020年末に新奇酵素ロドプシンが発見され、これまでに発見されている酵素ロドプシン、ひいては微生物ロドプシン全体と比較しても類を見ない興味深い特徴を持っていることが報告されている。そのため、今年度はこの新奇酵素ロドプシンに関する研究を進めていく予定である。新奇酵素ロドプシンは、大腸菌発現系では発現させることはできないため、前年度はタンパク質発現の条件検討を行っていた。そして、わずかではあるが昆虫細胞発現系を用いることで発現に成功した。そこで、紫外可視分光法、赤外分光法、生化学的分析法を用いて新奇酵素ロドプシンの分子特性を明らかにしようと考えている。具体的には、全長タンパク質試料と膜内ドメインのみの試料の測定を行い、両者の比較から酵素ドメイン由来の信号を抽出し、光反応中に起こる酵素ドメインのα-へリックスやβ-シートの動きやアミノ酸のプロトン化状態の変化をとらえたいと考えている。 次に、前年度に行ったRh-GCの時間分解赤外分光測定では、ミリ秒オーダーで変化する酵素ドメイン由来の信号をとらえることに成功した一方、タンパク質内部で起こるピコ秒オーダーの高速な反応をとらえることはできなかったため、低温赤外分光法を適用する必要性がある。低温で測定することで、発色団であるレチナールが異性化した直後のタンパク質内部の変化をとらえることが可能である。そこで、Rh-GCを低温で測定するための条件確立も同時に進める。 上記により得られた成果をレチナールタンパク質国際会議や日本生物物理学会等の国際学会で発表することを目指す。
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Remarks |
受賞等 ○第21回日本蛋白質科学会年会 日本蛋白質科学会ポスター賞 オンライン 令和3年6月17日 ○第15回分子科学討論会 分子科学会優秀ポスター賞 オンライン 令和3年10月25日○第59回日本生物物理学会年会 第6回日本生物物理学会学生発表賞 令和3年11月27日 ○令和3年度日本生物物理学会中部支部講演会 最優秀発表賞 令和4年3月17日
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Research Products
(11 results)