2022 Fiscal Year Annual Research Report
ポストコロニアル・環境/動物批評の理論的構築とジョージア近代文学研究
Project/Area Number |
21J00333
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
五月女 颯 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ジョージア / ジョージア文学 / エコクリティシズム / ポストコロニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
交付2年目となる2022年度は、本研究の対象とする、ジョージア近代文学の2名の作家の作品分析を行った。 まず、ヴァジャ=プシャヴェラについて、エッセー「コスモポリタニズムとパトリオティズム」について研究した。同エッセーは、一般に、コスモポリタニズムに対しパトリオティズムの優位を主張したと理解されるが、しかし実際にはパトリオティズムを否定していない。エコクリティシズムの文脈では、「土地の感覚」のキーワードで示される土地への帰属意識が重視されるが、同時に偏狭なローカリズムに陥らず、より広い帰属意識もまた重要である。本研究にとっては、そうした広い帰属意識が、結果としてヴァジャが作品においてロシアの植民地主義への批判を描かなかった、一つの理由として考えられるのではないか、との仮説が得られるのではないか。同内容は、本年7月の国際比較文学会において口頭発表した。 カズベギ研究については、短編「ぼくが羊飼いだった頃の話」を対象に研究を進めた。エコクリティシズムにおいて、自然環境と人間生活の理想的空間として「パストラル」(牧歌)がよく例に出される。西欧古典に端を発し、羊飼いが恋や仕事の詩を詠うのが典型的なパストラルだが、同作品は反対に、ロシアの帝国主義的支配の圧政に苦しむ羊飼いの困難な生活がリアリスティックに描かれている。特に、越冬のため平地へ下る場面では、帝国の尖兵であるコサック兵により通行料を要求されるが、ここでは遊牧的・牧歌的空間を条里化し支配したい帝国の欲望が看取される。同内容は、12月に日本ロシア文学会若手ワークショップ「ロシア・東欧の『パストラル』の諸相」にて口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、新型コロナウィルス感染症の感染状況が世界的に落ち着いたため、海外での資料調査・文献収集、また学会参加が可能となり、そうした点で概ね予定どおりの研究を実施できた。特に、国際比較文学会へ参加し口頭発表し、また昨年度から投稿していた論文が掲載されたなど、研究成果の発表という面での結果を残せた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記で述べたカズベギ研究を深化させ、論文での投稿を目指す。特に、「パストラル」のテーマはロシアを含め他文化・他文学との比較という点で大きな可能性を秘めていることがわかり、エコクリティシズムの理論的側面での発展が見込まれることから、来年度も継続して研究を進めたい。
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