2021 Fiscal Year Annual Research Report
地衣類における緑藻共生とシアノバクテリア共生の遺伝的基盤の解明
Project/Area Number |
21J01026
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
升本 宙 京都大学, 地球環境学堂, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 担子菌類 / 地衣類 / 共生 / ゲノム / 緑藻 |
Outline of Annual Research Achievements |
地衣共生は菌類-藻類間の共生系であり、ほとんどの場合、この共生系に関与する藻類は真核生物の緑藻または原核生物のシアノバクテリア(藍藻)となっている。しかし、いずれの藻類が関与する地衣共生系においても、その共生機構の遺伝的基盤についてはほぼ未解明な状況にあり、また、共生相手の藻類が緑藻の場合とシアノバクテリアの場合とで地衣共生の機構に違いがあるのかについても同様に判明していない。本研究では、担子菌類Multiclavula-緑藻Elliptochloris間の地衣共生系、及び担子菌類Dictyonema-シアノバクテリアRhizonema間の地衣共生系に注目し、両共生系における菌類および藻類のゲノム情報を新規に取得することにより、地衣共生機構の遺伝的基盤の解明に寄与することを目的としている。当該年度では、担子菌類D. mooreiおよびシアノバクテリアRhizonema sp.の純粋培養株を十分量のゲノム抽出が可能な生物量が得られるまで培養し、ゲノム解読を試みた。前者はPacBio社のSequel IIを用いてHiFiリードを取得し、ゲノムのアセンブルを行った。後者はONT社のMinIONを使用したロングリードの取得するとともに、MGI社のDNBSEQを使用したショートリードの取得を行い、ハイブリッドアセンブルでゲノムを構築した。その結果、担子菌類D. mooreiのゲノムサイズは約33 Mbであり、担子菌類としては比較的小さめのゲノムサイズであることが判明した。一方で、シアノバクテリアRhizonema sp.のゲノムサイズは約9 Mbであり、地衣共生に関与するシアノバクテリアとして知られるNostoc株よりもやや大きなゲノムを有することが判明した。今後、近縁系統とのゲノム比較を行い、地衣共生に関与する可能性があるゲノム上の特徴の抽出を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
担子菌類Dictyonema-シアノバクテリアRhizonema間の地衣共生系について、十分量のゲノムDNAが抽出できる程度にまで菌体および藻体を増やすのに時間を要したものの、両者ともにゲノム配列の取得に成功した。そして、BUSCOやcheckM等のゲノムの完全性を評価する指標を参照しても特に問題のないスコアが得られたことから、今後の研究に利用可能な完全性の高いゲノム情報を得ることができたと考えている。また、担子菌類Multiclavula-緑藻Elliptochloris間の地衣共生系については、実験室内での共培養実験を行い、バルサ材とコーンミール寒天培地を使用した共培養条件において、約2ヶ月程度で地衣体の形成が誘導が見られることが確認でき、次年度で地衣共生時の遺伝子発現を調査する際の基礎的な環境を整備することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
緑藻を共生藻とするMulticlavula-Elliptochloris共生系については、既に新規ゲノム決定が完了している共生菌Multiclavula mucidaと共生藻Elliptochloris subsphaericaを対象に、両者の共培養実験を実験室条件下で実施して地衣共生の誘導を行い、共生時に特異的な遺伝子発現をRNA-seqの手法を用いて解析することを計画している。また、共生菌M. mucidaについては、プロトプラスト-PEG法を用いた相同組換えによる遺伝子組換え手法を試み、任意の遺伝子について機能解析を行うことが可能であるかどうか調査するため、薬剤耐性マーカー遺伝子を用いた標的遺伝子の破壊株の作出を試みることも計画している。もう一つの地衣共生系である、シアノバクテリアを共生藻とするDictyonema-Rhizonema共生系については、地衣共生が誘導される共培養条件の検討を進める予定である。また申請者は、共生菌Dictyonema属の姉妹群にあたり、同様にシアノバクテリアのRhizonema属を共生藻とする地衣化菌Cyphellostereum ushimanumの純粋培養株も確立しており、このC. ushimanumについても新規ゲノム決定を行う予定である。さらに、これまでに共生菌M. mucidaとD. moorei、共生藻E. subsphaericaとRhizonema sp.のゲノム決定を実施できたことから、これらの菌類と藻類のゲノムについて、公開されている他の菌類や藻類とのゲノム情報との比較を行い、地衣共生に特異的なゲノム上の特徴を抽出することを試みたいと考えている。
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Research Products
(7 results)