2021 Fiscal Year Annual Research Report
Meta-metaphysical Reconstruction of Hegel's late Philosophy in the Light of New-Realism
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21J01594
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯泉 佑介 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ヘーゲル論理学 / メタ形而上学 / ヘーゲル哲学体系 / 新実在論 / 絶対精神論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、体系期ヘーゲル哲学をメタ形而上学的に再構成するための基礎研究として、ヘーゲル哲学体系の論証構造を解明する研究に取り組んだ。体系期のヘーゲル哲学には自己正当化の論証構造が備わっているとされるが、本研究では、この論証構造を「概念の運動」のレベルと「諸領域の関係」のレベルに区分して、それぞれ解明を試みた。「概念の運動」については、『大論理学』のテキスト読解に基づき、ヘーゲル論理学の存在論と概念論における概念性格の差異(自体と対自)に着目することによって、「概念の運動」の包括性と一貫性を明らかにした。『エンツィクロペディ』で論じられる「諸領域の関係」に関しては、M. トイニッセンによる古典的な研究書(Hegels Lehre vom absoluten Geist als theologisch-politischer Traktat, De Gruyter, 1970)を踏まえて絶対精神論のテキスト分析を進めたが、当初計画していた「三つの推論」論の考察については見直しを行った。 一方、本年度は、次年度以降に着手する予定だった発展研究について一定の成果を得ることができた。その一つは、下田和宣の新著『宗教史の哲学:後期ヘーゲル迂回路』(京都大学学術出版会、2021)を検討して得られた、体系期ヘーゲル哲学のメタ形而上学的次元に関する洞察である。二つ目は、M. ガブリエルが高く評価するアメリカの分析哲学者P. ボゴシアンの著作『知への恐れ』(Fear of Knowledge, 2006/07)を翻訳出版し、その内容を吟味することで、分析的アプローチの有効性を確認したことである。 なお、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、海外での滞在研究は実現できなかったが、中国の清華大学との共催で行われた国際ワークショップにて英語での発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」と判断せざるをえなかったのは、本年度の研究の基本軸となる「概念の運動」の構造分析と「諸領域の関係」の考察を十分に展開することができなかったからである。「概念の運動」論は、「自体」と「対自」からなる概念の構造を剔出するだけでは十分ではなく、ヘーゲル論理学の全体構成、とりわけ本質論に即して検討し、さらに彫琢する必要性が生じたため、当初の想定より時間を要することになった。また、『エンツィクロペディ』に基づく「諸領域の関係」の解明に関しては、もともと計画していた「三つの推論」論の考察が必ずしも有効でないことが判明した。「三つの推論」論は、体系期ヘーゲル哲学の論理学、自然哲学、精神哲学の関係を規定する議論だが、すでに成立した特定の体系部門に対するヘーゲルの事後的な反省よりも、より一般的な観点から「エンツィクロペディ」体系を基礎付ける原理を見出さなければならないからである。 他方で、次年度以降の発展研究に先行的に携わったことは思わぬ成果をもたらした。次年度の課題は、体系期ヘーゲル哲学の論証構造と新実在論の論証構造を対比することでヘーゲル哲学の非形而上学的な前提を解明することであるが、下田和宣の著作『宗教史の哲学』を検討することで、「エンツィクロペディ」体系のメタ形而上学構造を非形而上学的な「精神的・文化的・歴史的領域」と接続させる必要性が明確になった。さらに、P. ボゴシアンの『知への恐れ』の翻訳プロジェクトからは、ヘーゲル体系哲学の方法論とは異なるものの、M. ガブリエル自身が評価する分析的アプローチの要点を確認することによって、新実在論と比較検討する際の手がかりを入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究状況の遅れを踏まえ、今後は「ヘーゲル哲学体系の論証構造の解明」から「ヘーゲル哲学体系の論証構造と新実在論の論証構造との比較」へと段階的に区切って進めるのではなく、部分的に同時並行で研究を進行する必要性が生じた。進捗次第では2023年度の「仕上げの研究」に影響を及ぼすおそれもあるが、本年度に引き続き、体系期ヘーゲル哲学の『大論理学』および『エンツィクロペディ』のテキスト分析を深化させつつ、比較対象である新実在論における論証構造の研究を推し進めることで、同時期の研究が可能になると考えている。 具体的には、本質論を考慮に入れて「概念の運動」の構造を分析し、ヘーゲル論理学の論証方法を十全な仕方で解明する一方、ヘーゲル哲学体系の特性が描写されている『エンツィクロペディ』の序論を再検討して「諸領域の関係」論の原理的考察を行う。さらに、『エンツィクロペディ』の絶対精神論に関しては、下田の宗教哲学(精神哲学)研究の成果を取り込んで「精神的・文化的・歴史的領域」の正当化論理の解明に取り組む。このようなステップを踏むことで初めて、新実在論の論証構造と体系期ヘーゲル哲学の論証構造をメタ形而上学的観点から比較する条件が整うと考えている。
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Research Products
(4 results)