2022 Fiscal Year Annual Research Report
Meta-metaphysical Reconstruction of Hegel's late Philosophy in the Light of New-Realism
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21J01594
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯泉 佑介 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ヘーゲル哲学 / 新実在論 / 哲学体系 / 概念 / メタ哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の【基礎研究】であるヘーゲル「論理学」の方法論研究に関しては、『大論理学』概念論(1816年)に即して「概念の運動」の構造分析を進めた。従来の研究では、否定性や矛盾を重視する解釈と推論構造に着目する解釈との狭間にあってヘーゲル特有の〈総体的な概念の自己否定性〉が見落とされてきたことを指摘し、この否定性の機能こそがヘーゲル「論理学」の方法論的核心であることを、京都大学西洋哲学史専修(近世)の雑誌Scientia掲載論文にて発表した。さらに、この意味での〈概念の自己否定性〉が『精神現象学』(1807年)の「絶対知」に通じるという着想について、23年2月に招待された仙台近代ドイツ哲学研究セミナーの講演で示唆した。 【基礎研究】の第二の課題であり、21年度から積み残していた「エンツィクロペディ」体系の理論構成の解明に関しては、『エンツィクロペディ』第3版(1830年)のテキスト解釈に基づき、「円環」の問題に焦点を絞って考察を行った。この考察の一部は、博士論文を部分的に再構成したイェーナ期のヘーゲル思想形成史研究に関する論文に組み込んで、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター発行の雑誌『ヨーロッパ研究』掲載論文にて公開した。 【発展研究】の課題である新実在論の検討については、マルクス・ガブリエルの主著Sein und Existenz(2016年)の共同翻訳プロジェクトを軸にしながら進めた。また、新実在論が提示したメタ形而上学的視座を用いることで体系期ヘーゲル哲学を理論的に再構成できることを、23年3月に開催された日本ヘーゲル学会フロンティア研究部会の発表にて明らかにした。 海外の国際学会での発表は審査に通らなかったため実施できなかったものの、22年9月にはドイツにおけるヘーゲル哲学研究の第一人者であるK. Vieweg教授の講演にて特定質問を務め、同教授と面識を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の【基礎研究】については大きな進展があった。『大論理学』と『エンツィクロペディ』の精読を通じて、ヘーゲル「論理学」の方法論と体系期ヘーゲル哲学の理論構成論を統合する解釈の見通しを得たところである。それに対して、【発展研究】は、方針転換の可能性に直面している。当初の研究計画では、マルクス・ガブリエルの提唱する新実在論を踏まえてヘーゲル哲学の非形而上学的前提を解釈することが企図されてきた。この解釈の一定の見通しはすでに提示しており、その成果がなかったわけではない。しかし、22年度に最近のガブリエルの研究をサーベイした結果、第一に、ガブリエルの新実在論では観念論と実在論との対立の解決や新たな存在概念の提示に力点が置かれており、形而上学とメタ形而上学との連関に対する洞察は必ずしも豊かではないこと、第二に、近年、ガブリエルの哲学的関心やコミットする論争が拡散する一方、新実在論を明示するような新たな議論の展開はほとんど見受けられないことが明らかになってきた。 他方で、22年度の後半には、今日世界的に注目を集める「メタ哲学」――狭義では分析形而上学の一分野だが、それだけにかぎらない――の研究が、ヘーゲル哲学の再構成に際して新実在論に求めていた役割の代替案となりうるという着想を得た。折よく、同様の解釈を提示している論文集The Relevance of Hegel's Concept of Philosophy: From Classical German Philosophy to Contemporary(L. Illetterati & G. Miolli, Bloomsbury, 2021)が公刊されたため、目下、本論文集を参考にしつつ、新たなアプローチの可能性を吟味している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2023年度の目標は、形而上学としての体系期ヘーゲル哲学を再解釈し、それ自身の歴史的条件を組み込んだメタ形而上学モデルを構築することによって、本研究プロジェクトを完成させることである。この研究の展開の見通しについて、まずヘーゲルは、晩年に至っても哲学体系の方法論と内在的な理論構成を一貫した仕方で構想しており、当初本研究で想定していた、特定の体系部門を拡張して再構成するアプローチはうまくいかないことが見込まれる。そこで最初に、a) 方法論と理論構成論を統合した形而上学としてのヘーゲル哲学を、絶対的否定性を原理とした「円環」あるいは「基礎なき基礎付け主義」として解釈する。次にb)、1)『エンツィクロペディ』第3版の緒論における「哲学以前の経験と歴史」への言及、2)『法哲学』序説における「哲学と現実の関係」論、3)絶対精神の歴史(芸術、宗教、哲学の歴史)に関する諸講義を踏まえて、ヘーゲル哲学体系とその「外部」としての「現実」との連関をヘーゲルに内在的な仕方で解明する。その上で、c) ガブリエルの新実在論もしくは現代の「メタ哲学」の知見を用いて、aとbのメタ哲学的連結を試みる。 具体的な研究活動として、まずaの研究成果を英語で論文化し、日本哲学会の国際学会誌 Tetsugaku に投稿する。bの研究成果については、昨年度実施できなかった実存思想協会の学会誌への投稿にもって公表する。新実在論の研究成果は日本ヘーゲル学会フロンティア研究部会などで公開し、ドイツ古典哲学研究者との今後の更なる連携を図る。最後に2024年初頭には、イタリアのL. Illetterati氏ら海外の研究者を招いて「ヘーゲル形而上学のメタ哲学的可能性」に関する国際ワークショップをオンライン形式で開催し、本プロジェクトの最終成果を発表するとともに国際的な議論を喚起する。
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Research Products
(6 results)