2021 Fiscal Year Annual Research Report
近世社会における「隠居大名」の政治的位置の形成と変遷
Project/Area Number |
21J20624
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安岡 達仁 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 近世大名 / 武家社会 / 隠居大名 / 土佐山内家 / 山内忠義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、隠居=前当主という存在を抱えた大名家の政治構造やその特質を検討することを通して近世の政治秩序を考察するものである。そのためには研究対象とする個別事例を定め、それを丹念に分析する必要がある。 本年度は特に近世前期の事例として土佐藩2代山内忠義(明暦2年(1656)隠居、寛文4年(1664)死去)とその隠居期の土佐藩に注目して研究を進めてきた。 ①忠義の隠居の要因とその後の山内家の政治構造について、特に隠居・当主・世子の政治的位置を家内秩序と具体的な政務決裁のあり方に注目して考察した。家内秩序では当主よりも上位に隠居が存在し続け、それが実際の国元の政務決裁などの場面に反映されていた点などを特徴として見出した。国元での隠居大名のあり方に着目した①に続いて、②在国を続けた隠居大名と江戸との関係について、在江戸の一族や家臣の存在、書状のやり取り、江戸城を中心とする儀礼に着目してその実態を明らかにした。隠居の後は参勤の必要がなく、江戸社会ではあくまで当主が中心に諸事が運営されつつも、隠居の「御意」や隠居の人的ネットワークが依然として大きく機能していた点等を指摘した。③国元での忠義らの行動を追う中で、土佐国における御殿・御茶屋の具体像が明らかとなってきた。土佐一国におけるそれらの全体像を明らかにして立地や利用のあり方の特徴を考察した。 ①、②は学会で口頭発表した。また、①~③の成果について、投稿論文として仕上げるべく文章化を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度に設定した内容について、土佐山内家・山内忠義に関する研究は一定程度の進捗があったと考える。一方で新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新たに史料調査を行い、その成果を基に行う具体的な分析については順調に進められたとは言い難い状況にある。以上より、本年度の研究進捗状況については、「やや遅れている」と評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、土佐藩山内家の研究を進め、学術投稿論文をして公表するとともに、他家あるいは他時代の事例についても対象を確定して分析を進めていくことで相互比較が可能をなる。それに向けて、以下の通りの研究方策を予定している。 第一に、近世中期の事例として尾張藩2代徳川光友(元禄6年(1693)隠居、元禄13年(1700))とその隠居期の尾張藩を分析事例として取り上げ、その政治的位置や尾張藩政、幕藩関係などへの影響について考察する。本年3月に刊行された『瑞龍院実録』はその主要な史料となるとともに、関連する史資料が各地博物館・研究所に所蔵されている。東京や名古屋で史料調査を実施し、その成果を基に論じていくことになる。政治史的な分析は勿論であるが、光友が隠居所とした城下の大曽根屋敷の存在に注目し、空間的にその意義を考察するなど、多角的な分析が可能であると考えている。 第二には、土佐や尾張以外の隠居大名の事例とそれに関する研究を収集する。研究開始以来行っている隠居についてのデータ(隠居大名の名前・隠居年月日など)を集めて整理するこれによって分析事例を相対化するとともに、大名家における隠居の全体像を把握したうえで、その特徴を見出すことを目指す。
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