2022 Fiscal Year Annual Research Report
固体と相互作用する分子に対する量子化学計算手法の確立
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21J21500
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今村 洸輔 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 量子化学計算 / 表面グリーン関数 / 表面 / 低次元物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体の部分構造を切り出したクラスターの量子化学計算を外向波境界条件で実行することで固体電子状態の連続性を記述するopen-boundary cluster model (OCM)に注目し、研究課題の遂行に取り組んでいる。 2022年度は、このOCM計算で必要な複素吸収ポテンシャル(complex absorbing potential: CAP)を第一原理的に構成するための新手法を開発した。従来法では、CAPの関数形を既定し、そこに含まれるパラメータを複素変分法に基づき最適化していた。この手法の問題点として、固体のバンド単位でCAPを最適化することができない点や、パラメータの微小変分ごとの計算が必要になる点が挙げられる。また、複素変分法は物理的な意味付けに乏しいという問題点も存在する。 そこで、表面グリーン関数理論で登場する自己エネルギーに対する近似表現としてCAPを得るための新規手法を開発した。この手法ではCAPを決定する過程でのパラメータ最適化が不要である。また、表面グリーン関数理論に対する近似から導かれるという物理的な意味づけも存在しており、従来法が抱えていた問題点を克服する手法であるといえる。 開発した手法の妥当性を検討するために、1次元鎖のHuckelモデルに対して本手法を適用した。このモデルでは、固体の電子状態を特徴づける状態密度の解析表現が得られている。新規手法によって得られたCAPをハミルトニアンに加えて計算した複素固有値から状態密度を計算した結果、解析解と非常によく一致する結果が得られた。続いて、1次元固体に対する表面吸着状態を記述するNewnsモデルに対して本手法を適用した。その結果、吸着状態の射影状態密度についても厳密解をよく再現できることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
OCM計算の実行おいて、最適な複素吸収ポテンシャルの決定が最大の課題であると考えている。そのための手法をモデル系において確立できた点は本研究課題の遂行にあたって一定の進展であるといえる。一方で、現在扱っているHuckelモデルは実際の量子化学計算からかなり近似を進めたものであるため、今後はその間を埋める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の展開として、開発した手法をより現実的な系に適用するための拡張を行う。量子化学計算で用いられる基底関数に対応させるために、非直交基底で表現されたハミルトニアンに対する表面グリーン関数理論から複素吸収ポテンシャルを決定する手法を開発する。この結果をもとに、吸収ポテンシャルの実空間表現の獲得にも取り組む。
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