2022 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖における巻貝の殻形態進化:分散能力がもたらす生物多様性創出機構の解明
Project/Area Number |
21J22917
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
澤田 直人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 分散能力 / 種多様性 / 集団遺伝構造 / 形態解析 / 系統分類 / 卵胎生 / 適応放散 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では琵琶湖の離島に生息する卵胎生の淡水貝類であるカワニナ属を対象として、淡水貝類における分散能力と幼貝の殻形態進化および種多様性の関係を(1)集団遺伝構造解析、(2)殻の機能推定、(3)生体実験によって明らかにすることを目的としている。 本年度は集団遺伝構造解析に基づいてタテヒダカワニナの現在の琵琶湖における分布様式を明らかにした。さらに本種の幼貝形態と分布パターンをヤマトカワニナおよびイボカワニナと比較し、分散能力と幼貝の殻形態進化の関係を推定した。また前年度および本年度に明らかにしたヤマトカワニナ・タテヒダカワニナの隠蔽種の分類学的検討を進めた。 MIG-seq法を用いたゲノム縮約解析に基づく集団遺伝構造解析によって、タテヒダカワニナの分布は沿岸に限定されるが、3種の近縁種が沿岸と離島の両方に分布することが明らかとなった。前年度までの、丸い幼貝形態を有するヤマトカワニナとイボカワニナの比較では、中型よりも小型の幼貝が分散能力を向上させる可能性が示唆されていた。しかし本年度には、細長い幼貝形態を持つタテヒダカワニナの近縁種において大小様々なサイズの幼貝が観察されたことから、幼貝の細長さが、幼貝サイズと分散能力の関係に影響を及ぼす可能性が新たに示された。ヤマトカワニナ・タテヒダカワニナの形態および分布を再定義し、ヤマトカワニナの3隠蔽種(トキタマカワニナ・チクブカワニナ・コンペイトウカワニナ)およびタテヒダカワニナの2隠蔽種(ケショウカワニナ・シノビカワニナ)の新種記載を行なって、本研究の分類学的基盤を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新たに4種のカワニナ類について分散能力と幼貝形態の関係を推定し、卵胎生巻貝の分散能力に幼貝のサイズと形態の両方が寄与していることが推定できたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断出来る。また集団遺伝構造と形態解析に基づき、本研究が対象とする琵琶湖のカワニナ属の分類学的基盤を整理したことは、古代湖における貝類の適応放散モデルの構築を行う上でも重要な成果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は屋内実験と形態解析によってヤマトカワニナおよびハベカワニナ、タテヒダカワニナとその近縁種の幼貝形態と分散能力の関係を定量する。また琵琶湖北部で野外調査を行い、実際に水面浮遊によって分散を行なっている生体を観察を試みる。加えて、前年度までの集団遺伝構造解析によって発見された未記載種の新種記載を行う。
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Research Products
(7 results)